2010年04月23日

ANGE 'Le bois travaille même le dimanche'

木は日曜日も働いている(直輸入盤・帯・ライナー付き)
アンジュ(Ange)
DUレーベル(ディスクユニオン)原盤
French/ Art disto (2010-02-13)
売り上げランキング: 133155


フランスのアンジュ(Ange 天使の意)といっても知らない人がほとんどだろう。70年代にデビューし、これまで600万枚のアルバムを売り、6枚のゴールドディスクを取り、3000のコンサートをこなしてきたバンドである。そのアンジュが今年バンド結成40周年を迎え、その節目の年に奇しくも40枚目のアルバムが発売された。その記念すべきアルバムのライナーノーツ=解説を書く光栄に預からせていただいた(DISK UNION さんとのコラボで、上記の「ライナー」を FRENCH BLOOM NET 名義で書きました)。フランスのロックの情報がほとんどない時代、奇特なレコード会社が3枚のアルバムを出していたが、そのライナーノーツだけがアンジュの輪郭をなぞる唯一の手がかりだった。時代は移り、今やアンジュのアルバムはアマゾンで買えるし、昔の貴重なライブ映像もyoutubeで見れるし、2ちゃんねるではアンジュのスレッドまで立っている。

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1970年に始まった音楽の冒険の生存者は68年=団塊世代のクリスチャン・デカンだけだ。90年代半ばから彼の息子のトリスタン(キーボード)が加わり、親子2世代バンドになっている。40周年を祝うためにアンジュは「40回目の雄たけび―Ange: la 40ème rugissante」と銘打ったツアーを2009年11月から始めている。極めつけは1月31日にパリのオランピア劇場(日本で言うと武道館かな)で行われたライブで、アンジュの最初のコンサートからちょうど40年目の日にあたる。フランスでは相変わらず人気バンドのようで、チケットは10月に売り出されてすぐに完売し、追加のコンサートも予定されている。



新しいアルバムの中身だが、プログレ(Progressive Rock)というよりは、それをベースにしつつ、新しい音楽の要素を吸収した洗練されたロックになっている。そこが評価が分かれるところだろうが、アルバムは実に多彩な曲で構成されている。ビデオクリップ(↑)になっている2曲目の「Hors-la-loi 無法者」では、ハードなギターにのせて、革命家のチェ・ゲバラへの憧れを歌っている。頻繁に聞こえる Allez loups y a というリフレインは Alléluia (ハレルヤ)と音が重っていることに気がつくだろう。オーディションを模したPVだが、最後にタコ(poulpe)を投げつけられて身震いしている表情が笑える。

マッシブ・アタックを思わせるイントロで始まる@「蝶と凧 Des Papillon, Des Cerfs Volants」。タイトル通り、スペーシーな広がりと飛翔感を感じさせる。フランス語もメロディにきれいに乗っていて、思わず口ずさんでしまう曲。D「アウタルキーの旅 Voyage en Autarcie」では自給自足の国を夢見る。アウタルキーはフランス語で「オタルシー」と発音され、自給自足の経済ブロックを指すが、詞の中では一種のユートピアのように歌われている。E「孤ならず Jamais Seul」では、「昔は孤独が好きで、人と話すことをバカげたことだと思っていた。しかし今は孤独ではない。自分の心のうちを打ち明ける相手がいる」、そういう成熟した大人の境地が素直に告白される。いずれも団塊オヤジのロマン炸裂といったところだろうか。

やはり目玉はアルバムのタイトル曲でもあるB「木は日曜日も働いている Le bois travaille même le dimanche」だろう。いかにもプログレ的な展開を見せる12分半の大作だ。超越的な存在が人間に語りかけるという形式はプログレではときどき試みられるパターンである。ここでは「私は風」と言っている存在が、Je pense, donc je souffle…(私は考える、ゆえに私は吹く)と言う。これを聞くと、ムーディ・ブールスの『夢幻』(On the threshold of a dream, 1969)の導入部なんかを思い出す。そこでもデカルトの Je pense, donc je suis.(=I think therefore I am.) が引用されているが、『夢幻』ではヒッピー・ムーブメントの文脈で自然破壊や機械化がテーマになっている。今はそれがエコロジーの文脈で再登場しているわけである。歌詞の前半は口頭弁論 Plaidoyer、後半は論告求刑 Réquisitoire となっていて、人間が法廷に立たされ、告発されるという設定なのだろう。最後に、「人間よ、おまえの種を救え。人間よ、おまえは去らなければならない。ここはもうお前の場所ではない」と宣告される。それを機に曲調が急転回する。

The Moody Blues - In The Beginning / Lovely To See You (from On The Threshold Of A Dream)
The Moody Blues - Have You Heard / The Voyage(同アルバムの白眉)
Genesis - The Musical Box
ロック温故知新−英仏プログレ対決(1) ジェネシスVSアンジュ

アンジュはデビュー当時から「フランスのジェネシス」と呼ばれてきた。しかし、アンジュはプログレの世界全体ではマージナルな存在とは言え、ジェネシスと対等に扱うべきオリジナルなグループなのだ。クリスチャンの独特の言葉使いとボーカルのスタイルには、同時代のフランスのグループと一線を画すオリジナリティーがある。それをピーター・ガブリエルに比するのもいいが、同時にドラマティックに歌い上げるシャンソン歌手の巨匠、ジャック・ブレルやレオ・フェレの系譜を見ることもできる。またアンジュがベルフォールというドイツ国境の田舎町の出身で、ジェネシスがマザーグースを引用したり、英国色を色濃く打ち出していたように、初期の彼らも民話や童話のような土着的な世界を作り上げていた。アンジュはルーツ回帰から出発したという意味でも、(フランスでしか売れない?)国産バンドという意味でも、ロマン主義的なバンドなのであった。

Ange - Sur la trace des fées(live 77)

DISK UNION のプログレ担当のYさんによると、プログレに限らずCDを購入する世代が若年層に広がらず、CDの購入層は30代半ば〜50代が中心になっているようだ。youtube や iPod(ネット配信)で音楽を聴くデジタル・ネイティブにはプログレは馴染まないのだろうか。プログレはコンセプトアルバムであることが多いので、CD全体を通して聴かないと良さがわからないかもしれない。とはいえ、アンジュは貴重なフランスの文化遺産であることには間違いはないし、フランス語の勉強になるような良質なロックを見つけるのは意外に難しい。アンジュの70年代の名盤もぜひ聴いてみて(↓)。

Au Dela Du DelireEmile Jacotey



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posted by cyberbloom at 22:26 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | JAZZ+ROCK+CLASSIC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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