2010年04月15日

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ!

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)何だか馴染みのある方言だと思ったら、舞台は自分の故郷からそう遠くない場所だった。田舎のからみつくような引力を振り切って、圏外に飛び出すには狂気じみたパワーがいる。東京の大学を受験するという安易な方法ではなく、女優になるとか、漫画家になるとか、そういうケモノ道を行く場合はなおさらのことだ(※ネタバレになるので、見ようと思っている人は見てから読んでね)。

究極の勘違い女、澄伽(すみか)を佐藤江梨子が演じる。見事な逆ギレぶりは逆に清々しさを感じるほどだ。地味でオタクな妹、清深(きよみ)も派手な姉に負けないくらいのパワーを内に秘めている。自分の身に降りかかった最悪の不幸さえもホラー漫画でリアルに表現せざるを得ない。さらには兄と姉の危険な関係さえも観察の対象にしてしまう、好奇心旺盛、ナチュラルボーンなアーティストなのだ。それに澄伽にとって自分の本当の価値を教えてくれたのは兄ではなく、いじめ倒していた清深だった。兄は物分かりの良い顔をしながら、家族の病理をひとりで抱え込み、延命させていただけ。「家族、家族」と言いながら、兄の気遣いは全く的外れで(死ぬ必要だって全くなかった)、それは結局家族を壊すことにしかならなかった。兄が死んで姉妹は自由になり、ようやくふたりで外に飛び出していけるのだ。

サトエリもハマリ役だが、待子(まちこ)役の永作博美の怪演も見逃せない。夫の姉妹たちとは逆に、東京に生まれ、東京で育ったが(コインロッカーに捨てられ、孤児院で育った)、結婚相談所を通して田舎に嫁いできた。そういう待子の微妙にずれた狂気をうまく演じている。ぶん殴られて畳の上をゴロゴロ転がったり、めんつゆをぶっかけられたり、処女のまま放置する夫に必死にセックスをせがんだり。それに彼女が作る人形の気持ち悪さときたら。ずっと孤独だった待子は家族を求めて田舎にやってきたわけで、彼女なりに自分の欲望を田舎の新しい家族に刷り合わせようと必死だったのだ。おせっかいながら待子のその後が非常に気にかかる。

CM監督から初めて映画を撮ったという吉田大八監督は、テンションの高いドラマの合間に、スタイリッシュに切り取られた田舎の風景をまるで洗練されたCMのようにはさみこんでいる。あの切り取り方は田舎にどっぷり浸かった人間からは出てこない。自分も田舎に帰ったときああいう風に田舎を見ようとするからだ。疎外感とノスタルジーのあいだに引き裂かれるような感情と一緒に。

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posted by cyberbloom at 22:17 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本と世界の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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