2010年04月09日

マヨルカ島とショパンとデヴィッド・アレン

Chopin: 24 Preludes Op.28世界中で愛される作曲家&ピアニスト、フレデリック・ショパン Frédéric Chopin が生まれてから今年で200年。ピアノの魅力を余すところなく追求した美しい旋律は、私たちの日常生活に溶け込んでさえいる。今年は生誕200年を記念したCDが発売され、地中海に浮かぶショパンゆかりのマヨルカ島 Mallorca(ス) Majorque(仏)にはファンがひっきりなしに訪れているという。

ショパンは1810年にポーランドで生まれ、ショパンは Chopin と綴る(フランス語に特徴的な ch の音と鼻母音が含まれる)。祖国をあとにしてウィーンやパリを転々とするが、1849年に39歳の若さで亡くなるまでポーランドの地を再び踏むことはなかった。ショパンは当時のパリの社交界の人気者で、ジョルジュ・サンド George Sand との逃避行など、ドラマティックな恋愛に身を投じたことでも知られる。

サンドとの逃避先がスペインのマヨルカ島だった。島の北西部にあるバルデモーサ村の日当たりの良い斜面にショパンとサンドが暮らしたカルトゥハ修道院が立っている。二人が暮らした眺めの良い部屋は現在資料館になっている。私は10年ほど前にそこを訪れたのだが、9月の地中海のまだ強い陽光が部屋の前に生い茂った蔦の葉のあいだからキラキラと漏れていたのを思い出す。

マヨルカの冬男爵夫人でパリの社交界の花形だったサンドは、若く才能豊かな作曲家に惹かれる。ショパンもまたはっきりと自己主張する政治的な女性作家に興味を抱く。社交界はふたりのうわさで持ちきりとなり、醜聞から逃げるようにサンドの子供2人とともにマヨルカ島に向かったのだった。本来の目的は結核の療養だったが、折りしも季節は雨季でショパンの体調を悪化させることになる。しかし、ショパンはサンドの看護に支えられ、創作に励み、そのときに完成したのが「雨だれ」を含む前奏曲集である。サンドも後年マヨルカ島での体験をもとに「Un hiver à Majorque」(「マジョルカの冬」1842年)を著している。

Vladimir Horowitz plays "Raindrop"

今のマヨルカ島はどうかというと、空港に降り立ったときからスペイン語表記と同じくらいのドイツ語表記であふれていた。意外なことに、そこはドイツ人バカンス客の植民地と化していた。ドイツにはバカンスの海がないからだろう。日本人にとってのハワイのようなものなのかもしれない。マジョルカ島のマジョリティーは「不凍港」ならぬ「不凍海水浴場」を求めるドイツの南下政策の結果なのだった。

ところで私はショパン好きが高じて、はるばるマヨルカ島というマイナーな観光地まで足を運んだわけではない。パリの旅行会社(Nouvelle Frontiere だったかな)で安いチャーター便のチケットを買ったが、今にも墜落しそうなボロボロの飛行機だった。隣にあるハウスミュージックの聖地、イビサ島にも行きたかったんだけど、それは断念。

Good Morning私の永遠のヒッピーアイドルである、デヴィッド・アレン Daevid Allen というミュージシャンがいる。そのうち「英仏プログレ対決」シリーズでも書くつもりだが、アレンはまずソフト・マシーン Soft Machine というイギリスのバンドのメンバーとして活動していた。しかしビザが切れていてツアー先のフランスからイギリスに再入国できず、フランスで新たにゴング Gong というプログレ&サイケなプロジェクトを立ち上げた。1968年、フランスで五月革命が勃発した際にアレンは学生側に加担するパフォーマンスを行い、このことで警察に追われる身となった。警官にテディベアを配り、ピジンのフランス語で詩を朗読しただけなのだが、影響力のある危険人物とみなされたようだ。そのときの潜伏先がスペインのマヨルカ島のデヤ Deià(ス) Deya(英)という村だった。ショパンと同じようにパリに居られなくなって逃れてきたわけである。

アレンが1976年に出したソロアルバム「Good Morning」のジャケットの裏側に、山道を歩いているアレンの写真がある。そこには「マヨルカ島のデヤにて」と書かれていて、その牧歌的な風景とアレンのヒッピーな姿に私は一瞬にして魅了された。そしていつか必ずそこに行ってみようと心に決めたのだった。高校生のころである。それは20年後に実現した。人生なんてそういう適当な思い込みで方向が決まるものだ。

アルバムの曲が youtube で見つかったので紹介しておく。ユング的なタイトルだが、ミニマルなマリンバが心地よいスピリチュアルな曲である。

Daevid Allen - Wise man in your heart(from Good Morning)

同じように、ピンク・フロイド Pink Floyd にサントロペ San Tropez (仏 Saint Tropez)という曲(Meddle 収録)があって、そのお気楽な詩に何となく惹かれて、いつかサントロペに行こうと思っていた。それはマヨルカ島の数年後、21世紀に入って実現した。サントロペは地中海に面したフランスの超高級リゾート地で、フランスの芸能人も集ってくるような場所だ。そこはヨーロッパの階級社会の彼岸のような場所だった。港に巨大なクルーザーが軒を連ねていて、デッキでは金持ちの一家が、「下々の皆さん」(笑)って感じで観光客を見下ろしながらシャンパンを飲んでいた。ピンク・フロイドの曲をバックに流した下のスライドはサントロペの観光案内になっていて、街の魅力が十分に伝わってくる。

Pink Floyd - San Tropez





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posted by cyberbloom at 21:14 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | バーチャル・バカンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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