2006年02月20日

BBCルポ班『サッカーてんやわんや-欧州サッカー新事情』

スター選手の華々しい活躍や代表チームの死闘など、ピッチ上での緊張と興奮がサッカーの「表舞台」であるとすれば、本書はその「裏舞台」を扱ったものとなります。イギリスBBC放送のスポーツドキュメンタリー・チームのスタッフによって書かれた本書はピッチ外のサッカー界の裏事情を12のテーマに分けて紹介しています。「あとがき」において訳者が、「イスラム世界まで巻き込んだスポーツというのはサッカーくらいしかないのでは」と述べるように、サッカーは全世界的規模で行われるスポーツとなりましたが、それは同時に全世界の人々の利害や思惑が錯綜することにもつながるわけですね。

たとえば、第1章「スターウォーズ」は電波ジャックの話。イングランド・プレミアリーグの試合は国内でTVの生中継が放送されることはなく、その一方で国外、たとえばノルウェーなどではこれを生で観ることができるそうです。プレミアリーグとしては、観客が減るのを恐れて国内の生中継は禁止し、逆に諸外国にたいしてはそれを認め、放映権料を得ようという思惑があるのですね。そして外国で試合が生放送されていることに目をつけたイングランドのパブのオーナーたちが、ノルウェーを経由して届く衛星放送を電波ジャック。これをパブで放映して、客を呼びこむのですが、もちろんプレミアリーグや衛星放送会社も黙って見過ごすわけにはいかない…。宇宙空間に浮かぶ放送衛星を軸に展開する、ドタバタ劇が紹介されています。

また、第11章「アジスアベバ、ローマ経由、ラバト行き」は、この章のサブタイトルにもあるように、国の代表になって祖国を逃れる選手たちの話。1994年に開幕したフランスワールドカップ予選に参加したエチオピア代表チームは、初戦をモロッコとアウェイで戦うことになりました。そして、飛行機でアジスアベバを発ち、中継地のローマに降り立ち、当地のホテルで一泊したのですが、朝になってみると何人かの選手がいなくなっていた…。このように内戦や貧困にあえぐエチオピアを逃れようとする選手たちの話題を中心に、「パスポートのためのスポーツ」、すなわち政治亡命の手段にされたサッカーなどのスポーツの話題が紹介されています。

ほかにも、ヘディングとアルツハイマーの関係、ヨーロッパサッカーシーンを劇的に買えた1995年のボスマン判決、1998年フランスワールドカップのチケット問題など、テーマは多岐にわたっています。
 
サッカーの醍醐味は、表舞台の華やかな部分であることは間違いありませんが、こうした裏事情を知ると、サッカーという世界の奥行きがぐっと広がると思います。あるいは、サッカーを通じて世界を知るということにもつながりますね。また裏表紙には「きみたちの態度は気に入らない」(イングランド・サッカー協会スポークスマン)と、本書に対するコメント(賛辞?)が載せられていますが、こういう権威ある団体から非難されるような本は、社会の核心部分をえぐっている可能性大。読み応え充分でオススメです。

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サッカーてんやわんや―欧州サッカー新事情
BBCルポ班 大出 健
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posted by cyberbloom at 00:00 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−グローバル化&WEB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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