2009年11月09日

『高学歴ワーキングプア「フリーター生産工場」としての大学院』

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)先日『高学歴ワーキングプア「フリーター生産工場」としての大学院』の著者、水月昭道氏の講演会「奨学金問題と高学歴ワーキングプア」を聞く機会に恵まれた。

水月氏は、日本の大学の授業料が現在とてつもなく高くなっているため大学で学ぶのに利子つき奨学金を借り入れなくてはならず、しかも卒業したら仕事があろうがなかろうが返済を始めるのが当たり前という今の制度が、まったく世界基準から外れているということを様々なデーターを用いて述べた。

例えばヨーロッパ諸国は授業料がおおむね無償であり、授業料の高いアメリカでも、悪名高い学生ローンが存在する一方で、返還義務のない給付奨学金も充実していることはあまり知られていない。

実は「国際人権規約」(1966年、国連総会で採択・日本は1979年に加盟)の条項には「高等教育の漸次的な無償化」(13条2項c)というものがあるが、これを承認していないのは、条約加盟国157カ国中、日本、ルワンダ、マダガスカルの3カ国のみである。OEDC加盟先進国30カ国中、半数の大学が無料であるにもかかわらず、である。このように日本政府は高額な授業料と公的な給付奨学金制度の不在という例外的な状態を放置しているのだ。日本学生支援機構の「奨学金」はただのローンにすぎないということを認識していない借り手=学生さんは多いのではないだろうか。

そもそも、新卒が即、正社員になれた一昔前の日本とは状況が一変した経済状況で、連帯保証人を取って立場の弱い未成年に貸し付け、卒業したら強制的に取り立て、さらには払えなかったらブラックリスト化するなんて、ほとんど詐欺と言っても過言ではあるまい。

まさに今週末歴史的な選挙が行われるが、民主党も大学の奨学金を大幅に拡充することをマニフェストに掲げている。自民党政権において長年放置されてきた大学の授業料と奨学金の問題は、選挙の重要な争点になりうるのであり、日本の将来を左右するイシューなのである。

講演会では、いかにこの状況を打破するかという処方箋も盛り込まれており、大変有意義なものであった。

ところで2007年に出版された『「フリーター生産工場」としての大学院』という少々刺激的な副題を持つ著書は、巷で問題になっている「派遣切り」の問題が、大学内部の問題と地続きであることを始めて可視化した貴重な著作として10万部近くを売り上げた。経済誌などでも大きく取り上げられていたが、当の大学人からの関心はあまり高くないように思われる。

まあ、大学内部の力関係からすると、立場の弱い当事者たちがなかなか声をあげられないのは仕方がないことかもしれない。しかし、超格差社会である大学の世代間の問題(一部の上の世代が下の世代から吸い上げている逆ピラミッド構造)は、まさに日本の大学の存在意義を問うており、対処の仕方次第では、日本の大学という共同体が崩壊し、ぺんぺん草も生えない事態になることに、大学の関係者たちはもっと意識的になってもいいのではないだろうか。

水月氏は40代である。大学院という「市場」でも食い物にされている「氷河期世代」が青息吐息なので、まだ余力のある40代世代が自分たちの真下の世代の代弁をすることは、この世代の使命なのかもしれない。自分もこの世代に属しているのだが、実はこのように振舞うことは単なるきれいごとではなく、「逃げ切れない世代」である故の危機感を持っていれば、リーズナブルな行動と言える。

しかしながら、水月氏のエライところは、率先して『高学歴ワーキングプア「フリーター生産工場」としての大学院』という、自分のキャリアにとってかなりリスキーな著書を、「あまりにも元気のない後輩の院生たちの力になりたい」という動機から出したことなのである。彼を駆り立てるものは「愛」なのだ。彼は僧侶でもあり、福祉の仕事にも携わっている。これからの時代のキーワードはもはや「競争」ではなく「共生」であることに、時代の先端を行く人々は気づき始めている。

さて、水月氏の待望のシリーズ第二弾が近々出版されることになった。

□『アカデミア・サバイバル』〜「高学歴ワーキングプア」から抜け出す〜
(9月10日発売予定、定価777円)

★話題作『高学歴ワーキングプア』から2年、待望の第2弾は、大学における「究極の就職術」だ。アカデミアに残りたい人は必ず読むべし。(中央公論新社HPより)

「セブン アンド ワイ」 および 「全国書店ネットワーク e-hon」での予約割り当て分はすでに完売(!)で、早めに入手するには、もう「アマゾン」での予約をチェックするしかないようだ。

水月氏が日本の大学の閉塞状況にどのような処方箋を提出してくれるのか、今から楽しみだ。

水月昭道氏のブログ「博士の道しるべ」


★このエントリーは09年8月25日に main blog に掲載。




noisette

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posted by cyberbloom at 20:47 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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