2009年11月03日

「シルバーショック」に見舞われる日本(前半)―Le Figaro より

日本列島では急速に高齢化が進んでいる。65歳以上が人口の21%を占める日本は、世界一の高齢化水準にある。孤独と小額年金によってつぎつぎに悲劇が生みだされている。

81歳の夫が85歳の妻を殺害した。自殺を企てた夫は逮捕され、「妻が不憫に思えて殺害した。私が死んだあと、妻の世話をする人がいなくなるのです」と捜査官に供述している。妻は老人性痴呆症を患っていた。状況を踏まえ、新聞は名前を掲載しなかった。日本人はこの事件にあまり驚かなかったが、それほどありふれた出来事でしかない。最新の警察当局の統計によると、2008年1月から11月の一年未満の間に、相手の面倒をもうみられなくなった、そしてそれができなくなるのではないかとの懸念から、21人が配偶者を殺害したと供述しているという。

これは日本の高齢化のもたらす悲劇の最たるものである。日本では急速に高齢化が進んでおり、65歳以上が人口の21%を占めるなど、世界最高水準の老人国家である。敬老の日(2009年は9月21日)は、年を追うごとにますます多くの人々がかかわっていくことになる。先日9月12日、政府は100歳以上の高齢者人口が4万人台を突破し、4万399人になると発表。2025年には、65歳以上年齢が人口の30パーセントを占めるという。日本は「シルバー」ショックに意識を向けはじめたのみである。ここで「シルバー」という語は、年配者に関することを指すために使われている(※)。「シルバー」などと表向きは敬意を表しているようにみえるが、現実はそれを否定している。1945年以来、日本自由党政権によってはじめられた政策は、社会より経済を優先するものだった。その結果、世界第二位の経済大国は老人たちを隅に追いやった。6万6000円の基礎年金と老人ホームの不足のせいで、高齢者たちは病院に頼らざるをえなくなった。彼らは他の日本人たちとおなじように苛立ちをあらわにし、8月の総選挙では、年金の増額を約束する民主党に投票した。(※訳者註:日本語でいう「シルバー=年配者」という概念はフランス語にはありません。原語の[argente]は「銀色の/お金にまつわる」という意味の形容詞です。さらにここから、記事執筆者は「シルバーショック=le choc argente」に「年配者=お金にまつわる」「ショック」というニュアンスをもたせようとしていると考えられます)

さしあたり、年配者の孤独は増していっている。65歳以上の高齢者の面倒をみる人々の48パーセントがまさにその65歳以上の高齢者たちなのである。冒頭に挙げたような例は避けがたいことなのだ。日本の社会的規範ではなにも解決できない。もちろんすでに『楢山節考』の時代ではなくなった。これはカンヌ国際映画祭においてパルムドールを受賞した映画(1983)で、70歳になった老人が村の負担にならないようにと山の頂上で孤独に死にゆく姿を扱った19世紀の日本を舞台としている。しかし、妻が年老いた夫の面倒をみるという考え方や、自らの不幸は口外しないということが悲劇を生みだしているのである。

「私たちの文化に根ざしたものなのです」

東京近郊の鶴ヶ島に、30年間にわたり夫婦で経営していた有名な焼鳥店があった。ある日、それが閉店した。78歳の夫が大動脈瘤を患ったのである。夫婦は近くに娘が住むアパートに引っ越した。72歳の妻は緑内障を患って片目を失い、視力は下がる一方だった。2008年12月25日、彼女は夫の首をスカーフで絞めて殺害し、自らも手首を切り自殺を図った。今年5月、妻に対し(日本の殺人罪の法定刑で)もっとも軽い懲役5年の判決が下った。法廷において、どうして市に援助を頼まなかったのか、と問われた被告人である妻は「そんなものがあることを知りませんでした」と答えた。けれども、妻は娘に対しても自分の問題を打ち明けておらず、娘は娘で差し出がましいことをしたくないと考えていた…。

「これは私たちの文化に根ざしたものなのです。近所に助けを求めたり、さらには行政に問い合わせることも恥だと考えているのです。もっとも困っているのは一人暮らしをしている人々です。私たちは自宅で孤独死をしている老人の方々を何度もみてきました」と、新宿にある社会福祉事業協議会の責任者である、マルヤマ・ユミコさんはいう。この団体は東京の高齢者たちの介護を仕事としている。新宿には100歳以上の高齢者が729人住んでいて、その大部分が自宅介護支援を受けている。けれども問題はそれ以外の人々である。この協議会の支援を受けられる最低年齢は75歳からであり、申込者は後を絶たない。基本サービスはつぎのようになる。月二回の自宅訪問、これはただ生きているかどうかを確かめるためのものである。大半は年配者たちが住む、色あせた公共マンションで配られているビラは、ボランティアたちの直面する問題を雄弁に物語る。「私どものメンバーが玄関先までうかがい、問題がないかどうかお訊ねします」。ところが、ボランティアの一人、定年退職した元公務員の妻であるイゴジさんによると、「私たちの支援が必要な人はほかにもたくさんいますが、その人たちがどこにいるのかわからないのです」






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posted by cyberbloom at 21:50 | パリ ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランスから見た日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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