2009年09月19日

フランスの雑誌がレポートする日本の「草食系男子」の実態

9月11日掲載の「どうして日本女性は子供をつくらないのか」がブログを始めて以来、最大のアクセスを記録した。今回も「フィガロ」からの記事で、日本の若者世代に関するレポートである。すでに「草食系」«herbivores» (⇔「肉食系」«carnivores» )という言葉はヨーロッパに伝わっているようである。

■「草食系」から「ニート」まで、日本の若者世代は自分の生き方を模索している。

草食男子世代―平成男子図鑑 (光文社知恵の森文庫)ユキオ(25才)は両親と同居している。東京の名門大学を卒業したものの就職活動はしなかった。ユニクロのTシャツとジーンズを身につけるユキオは、母親と買い物をするのが好きだ。車にも高価な時計にも興味はなく、女の子にもさほど関心はない。「いまのところ彼女はいないけど、べつにかまわないんです…」。本屋の店員の仕事をみつけた彼は幸いにも本が好きで、日本社会に批判の目をむける村上春樹を好んでいる。ユキオは「草食系」である。「草食系」とはジャーナリストの深澤真紀がネーミングしたものである。「日本語では、性行為が肉を食べることと似ているので、こういう言い方をするのです」と彼女は説明する。「私は、おおくの若い日本人男子が「肉食系」でないことに気がついたのです」 

深澤は日経新聞にこのテーマについての連載記事をもっており、自分たちの子どもに困惑している親たちに、こうしたあたらしい若者像を解説している。「彼らは同性愛者ではなく、たんに自分たちの父親のようになりたくないのです。マッチョではなく、仕事に命を賭けなければ消費もせず、自分の好みでアルバイトを選んでいます」

深澤によると、「草食系」たちは変化を期待しつつ民主党寄りの投票をしたというが、問題はもっと根深いものである。「アイデンティティの危機の要素もまたあります。彼らは日本的価値、たとえば連帯、共生といった価値観を取りもどそうとし、欧米に距離を置いています。彼らはややナショナリスト的といえるでしょう。彼らは、数年前に流行ったようにフランス映画をみるよりは、日本映画の古典的名作を選んでいます」。「草食系」の傾向はさらに広がっていると深澤はいう。「銀行家や実業家の間でも、高価なものに手を出さず、家族を大事にする人々をみかけるようになっています」。

この「ポップ社会学者」によると、「草食系」は日本の出生率の低下に加担しているという。では、女の子たちはどうだろうか?「彼女らは自分に自信をもつようになり、主婦の役割に順応しないようになってきています」。30歳以下の日本人女性のうち60%が結婚をしておらず、結婚せずに子どもを儲けることもほとんどしない。東京大学のアヤカ(23才)は自分もそうであると認めている。哲学科で卒業年度をむかえており、日本の大手銀行の内定を得ている。大学でなにを専攻しようが、大学の名前だけで職を得られることがしばしばある。「草食系?」。「そうですね、私の周りにもたくさんいます。彼らは手持ちのもので満足し、若い女性のことを攻撃的だといいます」。アヤカは自分の思うように人生を送ることを決心している。「私はたぶんこの会社で一生を過ごすことにならないと思います。外国で、たとえばアメリカで働きたいです」

アヤカとその友人のヨウコは、日本人女性のあたらしいあり方を象徴している。結婚、子ども? それもあるかもしれない。「いつかはしたいと思いますが、すぐの話ではありません」とヨウコはいう。彼女は半年前から銀行に勤めているが、さっそく仕事への愚痴を口にするようになっている。「私が若いからといって、責任のある仕事を任せてもらえないんです」。彼女は留学経験のあるアメリカに戻れたらと願い、またいつかはいったん仕事を中断し、アフリカで人道支援の仕事をしたいという確固たる意志をもっている。

アヤカやヨウコが変わってほしいと思うものはなんなのか? 「腐敗が減って、もっと効率よくなること」と口をそろえていう。とはいえ、2人とも選挙には行かなかった。この若い銀行家たちが心配していることといえば「GDPの1,8倍に相当する赤字を抱えていて、総理は自分の主張を実行する手段があるのだろうか」。

ヒロユキとユウジの願いは生きのびることだ。冴えない雰囲気の、NPO法人「育て上げ」で知り合いになったこの2人の若者は、急速に増えているもうひとつのカテゴリー、「ニート(学生でなく、仕事をせず、社会へ出るための準備をしていない人)」を象徴している。体格がいいもののおどおどした様子のヒロユキと、何度も天井を見上げるユギは、ここ20年の日本の危機の犠牲者たちである。一億総中流と終身雇用制は1990年代初頭に終わった。「35才以下の3分の1は定職をもっていません」と同法人の副所長、井村良英はいう。ニートはその最たるものなのである。

■礼儀正しい日本人

ヒロユキはすっかり自信をなくしている。30才の彼は2003年に法学部を卒業したが、いままで働いたことがなく、いまでは「仕事はなんでもいいです。工場で働くのもかまいません」といい職探しをしている。同法人で彼はなにを学んでいるのか? 「とくに、マナーについてです」。この若者は、大げさにお辞儀をするが、彼はすでに日本的な礼儀正しさは身につけているようである。「日本では、人々はかつてないほど礼儀正しくなっています」と彼はいう。

けれども、極端に礼儀正しくなったからといって職を得られるわけではないだろう。今年日本は、前年同月比にして20%の工業生産の落ちこみがあり、トヨタのような大手自動車メーカーでさえ、3割の非正規雇用を抱えている。

天井を見上げていたユウジ(34才)は、「元(もと)引きこもり」だと自己紹介した。彼は、社会との関わりを拒み、部屋に引きこもって親に用意してもらった食事を受け取るときにしかドアを開けない若者たちのひとりだった。日本で広がっている現象である。「なにもかもが辛かった」と彼はため息を吐く。工業高校を卒業し、絵を描くのが好きなのでマンガ業界に入ろうとしたがうまくいかなかった。アルバイトでパン屋をしたが、そののち辞めてしまい自分自身にとじこもった。「甥が助けてくれて、ここに連れてきてくれたんです」。同法人は彼に清掃の仕事を斡旋した。アルバイトである。高校生には正規雇用の職がなくなってしまっている。彼らには大学生とおなじく、最終学年で採用されるという習慣があった。今年は10人に対し7つしか求人がなかった。

日本の5.7%という失業率は、ヨーロッパ諸国からすれば羨望の的である。けれども、若者の一部の動揺が選挙の結果に重くのしかかった。たしかに日本のいくつかの風習は消え去るには長い時間がかかるだろう:会社のロビーでは、45度に身をかがめ笑顔をみせるのだけが仕事の受付嬢が、いつでももてなしてくれる。おなじくデパートの入り口では着飾った女性が、ひたすら「アリガトウゴザイマス!」といい続けている。おそらく時代遅れになった、職を守るためのひとつの流儀である。




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posted by cyberbloom at 13:03 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランスから見た日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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