2009年07月23日

「西」への視線――1800 désirs / Martin Rappeneau

1800 Desirs 当ブログで以前に紹介したマルタン・ラプノーMartin Rappeneauの3年ぶりの新作が出た。タイトルは1800désirs(1800の欲望)、彼にとっては3枚目のアルバムである。もともととてもいい曲を書く人だったが、今回のアルバムでも、タイトルチューンの"1800désirs"やシングルカットされた"Sans Armure"(よろいをぬいで)をはじめとして魅力的なメロディを持った名曲が並んでいる。サウンド面では、前作に比べファンキーでダンサブルな感じは弱まり、代わりにアコースティックギターが前面に出たフォーク色の強い作品になった。アルバム全体の雰囲気は以前よりうんと地味だが、そのぶん、ひとつひとつの音、一拍一拍のリズムにまで神経の行き届いた、落ち着いた雰囲気の作品に仕上がっている。

 プロデュースはラプノーとレジス・セカレリRégis Céccarelliが共同で担当。セカレリはもともとジャズ畑のドラマーだが,ヴァリエテ系のアーティストのアルバムにも多数参加、最近ではアブダル・マリックABD AL MALIK(進境いちじるしいフレンチ・ラッパー/スラマー)の近作GIBRALTAR(2006)、DANTE(2008)のドラマー兼プロデューサーとして優れた仕事を残している。ラプノーはGIBRALTARでのセカレリのプロデューサーとしての手腕を非常に高く評価しており、そのことが今回、共同作業を依頼するきっかけになったらしい。アブダル・マリックの上記二作ほど切れ味鋭いジャズ感覚はないものの、本作の随所で感じられる絶妙のグルーヴ感は、セカレリ(ドラムも担当)の存在に負うところが大きいと思う。

 アルバムの最後には"A l'Ouest"(西へ)という曲が置かれている。イーグルスのバラードを思わせる甘く切ないワルツで、歌詞は「パリで日々を生きてるぼくだけど、カリフォルニアの和音をひとつ聞くだけで、いつだってすぐに「西」にいけるよ」といった内容。聞いているほうが少々気恥ずかしくなるような、だが真摯で率直なアメリカのポピュラーミュージックへのオマージュソングである。この曲だけではなく、あるインタビューでの本人の発言によれば「70年代のフォーク、たとえばジェームス・テーラーやキャロル・キングなどのソングライター」をお手本にして制作されたというこのアルバム全体が、まっすぐに「西」を向いている。

 いわゆる「フレンチっぽさ」はあいかわらずほとんどないが、「ポップの職人」が作り上げた心にしみる名作。フランス音楽のマニアだけではなく、もっと幅広い音楽ファンに聞いてもらいたいアルバムだ。


■以前書いたラプノー関連のエントリー
「マルタン・ラプノー――「シャンソン」でも「フレンチ」でもない「グッドミュージック」」

■ラプノーのmyspaceのページ
上記"Sans Armure"を初めとする彼の曲がいくつか聴ける。



MANCHOT AUBERGINE

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posted by cyberbloom at 23:20 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | フレンチポップ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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