2009年07月16日

LE QUATORZE JUILLET 革命記念日か巴里祭か

フランスの 7月14日の記念日 le quatorze juillet を日本では主にパリ祭と呼んでいるが、フランスではパリ祭では通じない。「革命記念日」と呼ぶ。「パリ祭」は1933年に le quatorze juillet という映画が日本で封切られる際、「革命記念日」では日本人にはピンと来ないとして輸入元の東宝東和が『巴里祭』と名づけたことに由来している。一方英語では「Bastille Day」ともいう。英語やフランス語ではフランス革命を想起させる言葉なのに、何故か日本語では革命というよりお洒落なフランスのお祭りというような印象を与えている。とりわけ日本では7月14日にシャンソンのコンサートを開くのが恒例となってきた。
 
実際に革命記念日がどのようなものなのかをYoutubeで見てみると、どの映像を見てみても軍事パレードの印象が強い。朝はフランスが誇る mirage 戦闘機の飛行から始まり、フランス国旗トリコロールを戦闘機の煙で表現する。そしてシャンゼリゼ大通りで軍隊行進のパレード。参加していない軍隊では一般人が戦車に乗れるイベントまであるらしい。そして大統領のテレビでの恒例インタビューに続き、夜は各地で花火が上がる。

今年の革命記念日の軍事パレード1(動画 from TF1-20h 14 juillet)
今年の革命記念日の軍事パレード2(動画 from TF1-13h 15 juillet)
★隊員は4時起床で、準備に取り掛かる。今年はインドのシン首相とインド軍の部隊が招かれたが、武器の売り込みという意図もあるようだ。今年軍事パレードの警備全体の指揮をとったのは女性だった(動画1)。

日本人が抱くイメージに関して私が思うに、当然のことながらこれは日本人が「フランス=パリ=芸術の都」というイメージを広く持っているからだと思う。世界史を選択していた私にとっても、産業革命を起こしたイギリスに比べて、フランスはどうしても芸術の盛んな国であるという印象は拭えない。フランス革命があったものの、やはり平和ムードの漂う文化国、というイメージを安易に抱いてしまう。私自身、フランス語を選択した理由の一つに、フランス語を喋れたらおしゃれかもしれない、という不純な動機があったが、2月法に対する暴動やサルコジ大統領の話題を聞くと、急に「おフランス」ではないリアルなフランスに引き戻される気がする。
 
1994年の国防白書序文には、レオタール国防相の言葉として次のように記されている。「フランスの歴史は、軍の歴史と往々にして重なるものであった。こうした歴史によってわれわれの領土、我々の共通の記憶、我々の文化は形作られているのである」。一方、フランス軍に対する国民の負の記憶(第二次世界大戦におけるドイツへの降伏、アルジェリア問題の際の軍の策動や関与など)が消えないうちは、国民軍に対する評価にも厳しいものがあった。しかしその後「フランスの国益と国際社会の安定への貢献という実績を積み重ねる中で、徐々に国民の理解と評価を得られるようになってきた」のである。
 
また、ミッテラン元大統領やシラク前大統領の過去の発言から読み取れることは、「軍事力を外交の手段とみなしている」ことである。クラウゼヴィッツ流の「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」という考え方は、左右を問わずフランス人の国際感覚の中に定着していると言えるのである。このように、私たち日本人のイメージと違って、実はフランス軍は国民に大きな期待をかけられているのである。
 
しかし、忘れてならないのは、地方によって革命記念日の意味合いが大きく違うということである。これはブルターニュ地方が典型的である。そこではセレモニーは一切なく、夜に線香花火のような貧弱な花火が、人気のない海岸に音もなく上がるだけである。何故か。「革命と共和国」は、レジョナリズム(「分離独立主義」と訳しては少々大ゲサかもしれないが単なる「地域主義」では軽すぎる)の運動が活発なブルターニュでは禁句にも等しい。

この地方の住民にとって革命とは「恐怖政治」以外の何物でもなかった。大革命時代、パリの独裁に反抗して蜂起したブルターニュの農民たちを「共和国」の軍隊は情容赦なく殺戮した。そして彼らのブルトン語を奪い、フランス語を押し付けた。大革命がブルターニュにもたらしたのは、連帯ではなく、「聖職者と教師、親と子供、日常の言葉(ブルトン語)と学校の言葉(フランス語)との分裂だった」のである。このような地方にとって7月14日は夏のヴァカンスの始まりを意味する日として以外は、ポジティブな意味合いを持たない。
 
このように、日本人の単純なパリ祭のイメージとは大きくかけ離れた現実が、フランス当地には存在する。これはいうまでもなく、無知な日本人がいかにフランスについて虚構を積み重ねているかを表しているのではないかと思う。日本人として、日本が「ゲイシャやサムライなどエキゾティックなイメージ」から「経済大国、長寿国、先進国のイメージ」(最近ではマンガ&アニメとヴィジュアル系バンド…)への転換を望むのと同様に、フランスに対しても単に「おフランスとパリ」ではなく、「軍隊が存在し、パリ以外にもたくさんの地方都市が独自の文化を形成し存在している」という多様な側面に目を向けていかなければならないと思う。






なぽリ

☆PROFILE☆4月からフランス語を勉強しだしました。いつかおフランスではないパリに行ってみたい!!

★3年前に学生さんが書いてくれた記事の再アップです。「革命記念日」は日本での呼称だが、フランスでは La fête nationale française (フランスの国民的祝日)あるいはそのまま Quatorze Juillet(7月14日)と呼ばれている。いずれにせよ、バスチーユの占拠と絶対王政の終焉を記念している日なので、革命記念日と呼ぶのが妥当だろう。
★現在のフランス軍は絶対王政から人民を解放した力の延長線上にあるということなのだろう。それは記事にもあるように、地方に対する抑圧としても働いた。もちろん現在の軍事力も国内にとどまるものではなく、こうした武器外交の舞台にもなるわけだし、動画ニュースの中で取材されている兵士は去年コソボで負傷したと言っている。



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posted by cyberbloom at 12:30 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事+トレンド特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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