2009年06月20日

サンローランの美術コレクション

yves-1-2.jpgイヴ・サンローランと彼の長年のパートナー、ピエール・ベルジュの美術コレクションのオークションは世界中の関心を集めました。3日間で700点を超える品が出品され、総売り上げは約430億円。動いたおカネの大きさはもちろんのこと、競売にかけられた品々が、美術の教科書に出てくるようなミュージアム・ピースばかりだったことも話題になりました。

個人コレクターが、これだけの見事な美術品を数多く所有できたのは希有なこと。いくつかの条件が、幸運にも重なった結果と言えます。まず、潤沢な資金。世界中で売れに売れた服・化粧品・香水がもたらすマネーは、好きな物をためらう事なく購入する自由を二人に与えました。次にタイミング。ごく若いうちに成功を収めたサンローランは、投資マネーとも無縁な牧歌的な時期である60年代末からコレクションを始めることができました。芸術家の家族や親しい人々が所有する作品が、望めば手に入れられる状況にあったのです。そして、二人の美への純粋な愛情と強い意志。サンローランとベルジュは、美術史はもちろん芸術家の人生と作品について徹底的に学んだ上で、これぞという品を手にいれてゆきました。モットーは「芸術家の創作歴で最も重要な時期に製作された作品で、作者以外の一切の手が加えれておらず、ちゃんとした証明書がついていること。」惚れ込んだ作品であれば、即購入。どんな値段でもベルジュは受け入れ、サンローランは値段すら尋ねなかったといいます。

かくして、ベル・エポックのファッションデザイナーでサラ・ベルナールのごひいきであったジャック・ドゥーセ所有のアールデコ・コレクションを皮切りに、二人は次々と美術品を手に入れてゆきました。ジェリコやゴヤ、アングルといったヨーロッパの古典絵画、セザンヌにピカソ、マティスにモンドリアンなどの近現代の絵画、彫像、はては家具、工芸品にいたるまで、幅広いジャンルの古今東西の品々が収集されました。セレクションには二人の美へのこだわりが反映されています。例えば、シュールレアリストの手による作品は一点もありません。名誉とも所有欲とは一線を画す深い思い入れ、別居後も二人を結びつけ続けた美しい物への愛が、ひとつひとつの品に込められているのです。

ysl02.jpgモンドリアン・ルック等デザインのインスピレーションの源ともなった大事な「資産」は、サンローランとベルジュの生活の一部でもありました。手に入れた美しい物を身近に置き、いかに愛でるかにもこだわったのです。手本になったのは、このブログでも紹介した、マリー=ロール・ド・ノアイユ。マダム・ビザールと呼ばれた公爵夫人のサロンは、父祖の代から受け継いだヨーロッパの古典美術品と、夫人好みの現代美術の作品がモダンで簡素な室内に一緒くたして飾り付けられ、新旧の美が「悪趣味」と「絶妙なセンスの良さ」の間でせめぎあう独特の空間として知られていました。ノアイユ夫人の流儀に従って、二人は住まいをコレクションで埋めていったのです。もくろみは見事成功し、曰く言い難い夢のような空間が生まれました。

パリにある2つの住まいを埋め尽くし(かける場所がなく、ドガのパステル画はビデとトイレの間の壁に飾られたとか)、二人の日々を見守ってきた美術コレクション。思い出が詰まった、愛着ある品々の大半をベルジュは売りに出しました。「イヴが生きていれば、決して同意しなかったろうね。」パクスしたパートナーとして、有能なビジネスマンとして、イヴを支えてきたベルジュは、ヴァニティー・フェア誌のインタビューで語っています。「イヴが亡くなった今、コレクションも意味を失った。全ては終わったんだ。自分の葬式に参列することは誰にもできないけれど、愛した物の葬式は出してやることができる。」

売り上げは、イヴの仕事を後世に伝えるべく設立された財団と、エイズ研究のために設立された財団の資金にあてられます。ウォーホルが手がけたイヴと愛犬ムジークのシルクスクリーンのポートレート、そしてグラフィックデザイナー、カッサンドルがデザインしたかの有名なサンローランのロゴマークの原型イラストは、売らずにベルジュの手元に置いておくそうです。

業界人の間で伝説となっていたサンローランのパリの住まいの映像は、ここで見る事ができます





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posted by cyberbloom at 23:00 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | ファッション+モード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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