2009年06月18日

ミシュラン・ガイド VS 食べログ

Michelin Guide 2009 France (Michelin Red Guide: France)「ミシュランガイド」は、今年で100冊目となる。発売の際にはパリで豪華な記念式典が開催された。ミシュランガイド100号の出版記念式典は、オルセー美術館で行われ、三つ星シェフらが招かれた。今回、新たにサルコジ大統領のお気に入りの店が三つ星を獲得したことで、パリの三つ星店は計10軒となり、東京を逆転。また、日本人シェフでは、新たに伊地知雅さんが経営するフランス南東部の店が一つ星を獲得している。ミシュラン・ガイドは、日本でも東京に次ぐ第二の都市(大阪と京都)の新たなグルメガイドを作成中で、今秋に発売する予定と報じられている。

フランスでミシュラン離れの動きが出ていることを以前紹介したことがある。その先頭に立って公然とミシュラン批判を繰り広げているのがジョエル・ロブションだ。「わたしはミシュランのアンケートに答えない。載せてもらおうとは思わない。判定基準があまりに時代遅れで、新しさを求めるレストランは評価してもらえない」と主張している。ロブションは前菜、メイン、デザートという伝統的なスタイルにとらわれない、カジュアルなカウンターのレストラン「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」を2003年にパリと六本木ヒルズに開いた。こういうレストランはミシュランに評価されないと言っていたが、それでも「ミシュラン・ガイド東京」では星を2つ獲得した。

一握りの特権者が価値を決め、「これに従え」とばかりに上から下へと情報を流す。下々の大多数の人間はそれを正しい価値として信じる。この啓蒙的な刷り込みを権威システムと呼ぶとすれば、新聞、雑誌、テレビなど、近年凋落が著しいと言われるメディアはすべてこのシステムの上に乗っていて、これらは集合知という新しい情報様式にその基盤を揺るがされている。

グルメの「権威システム」の最たるものが「ミシュラン・ガイド」とすれば、グルメと集合知の結びつきとして、グルメ口コミサイト「食べログ http://tabelog.com/ 」がある。カカクコムが運営する「食べログ」は、月間利用者が500万人、口コミ数が33万件に及ぶ。料理や店内の写真を口コミと一緒にサイトにアップロードでき、レビュアー(評価者)は自分自身のデータベースとしても利用できる。ユーザー用のページは本人以外の利用者も見ることができる。それによってユーザーは自分の好みにあったレビュアーを見つけ出し、そのレビュアーの舌を信用するようになる。

料理に対する嗜好は個人的なものなので、マスメディアや権威のある人間の評価よりも自分と共通する好みを持った人間の評価の方がはるかに信頼できるというわけだ。それは自分にとっての有用性や意味を求め、自分にとって必要な情報源、情報網、情報共有圏を構築していく方向性である。これはそういう情報のあり方を媒介にした人間関係とアイデンティティーのモデルでもある。

「ミシュラン・ガイド東京」と食べログでの評価を比較してみると、その結果は著しく異なっている。食べログの「東京」「フレンチレストラン」というジャンルのランキングでは、上位20位にミシュランの三ツ星のレストランは1軒しか入っていなかった。食べログでは自分の舌と似ているレビュアーが見つかれば、そのレビュアーの評価はミシュランよりも価値があることになる。ミシュランの調査委員はプロであり、組織的なレビュー(最終的には合議で判定するようだ)を行うが、それが自分の好みに合わなければミシュランの格付けはあまり意味がない。

確かに絶対的な「美味しさ」は存在するのかもしれないが、私たちは、友だちと、恋人と、家族と、多様な関係性の中で食事をする。それに応じたレストランの使い方や、かけたい費用のレベルも様々なのだ。それぞれのレベルにおいてコストパフォーマンス(フランス語ではカリテ・プリ qualité prix)を追求したり、ちょっと贅沢もしたりする。それに対してミシュランの尺度はあまりに一元的だ。もっともミシュランはすでにそのような使いこなしの一部になっているのだと思うが。

しかし、食べ歩きは所詮バブルの産物という気がしないでもない。「食べログ」にもそういう匂いを感じてしまうが、食をめぐる情報共有圏に、自分で(みんなで)料理をするとか、自分で野菜を作るとか、そういう日常的な実践のサイクルを織り交ぜていくと、単なる消費主義の枠を越えた、より豊かな情報共有圏を作れるだろう。WEB3.0はそういう既成の枠組みを崩していくことにこそ威力を発揮するのだ。

□情報共有圏(=インフォコモンズ)という概念と、食べログに関しては、佐々木俊尚著「インフォコモンズ」を参照。


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