2009年04月23日

YOUTUBE 礼賛

BRUTUS (ブルータス) 2008年 12/15号 [雑誌]今週のBRUTUS (ブルータス、2008年 12/15号)はyoutube特集。日本では一人当たり1時間14分13秒、youtubeを見るのだという(そうすると、私は平均的なyoutubeのユーザーということか)。そして現在アップされている動画を全部見るには20世紀もかかってしまうらしい。最近は著作権対策として、ビデオIDによって削除する方法が使われている。著作権者がビデオのIDのデータを送り、それと一致した動画がアップされた場合、著作権者に報告される。それに対して動画を削除するか、残すか、広告を入れるか選択できる。多くの場合、削除せずに広告を入れるのだという。それが合理的な選択なのだろう。

圧倒的なユーザーの支持の前に、著作権の意味が相対的に失われつつある。情報をスムーズに流通させることがネットの世界において最優先されるし、それを考慮に入れたこれまでの著作権とは別の対価の回収方法が模索されているのだろう。結局、著作権は「著者が決定した完全版が本屋を通して売られる」という情報流動性の低い印刷文化の産物なのだ。またその根底には偉大な作者のテクストを神聖不可侵のものとみなすロマン主義的な発想がある。今やテクストは著者の意図を尊重するためにあるのではない。意のままに呼び出し、書き換え、再編集するためにこそあるのだ。

世界の情報化、インデックス化はグーグルと言う企業が主導しているとすれば、youtubeはグローバル化の動きに乗って、世界で記憶(=動画)を共有しようという壮大な試みなのだろう。創業者は当初「結婚式やホームビデオ」などのささやかな投稿サイトを想定していたようだが、今や、自分の記憶を残したい、人に見せたいという国境を越えた欲望が一種の集合的な記憶になり、一種のデータベースのようになって、世界(空間)と時代(時間)を網羅していくダイナミックな動きの中にある。

見たい映像はとりあえず出てくる。Youtubeは検索の力を再認識させる。これまで視聴者の選択の幅はせいぜいチャンネルを変えることくらいだった。しかしYoutubeによって見たいものをピンポイントで探せるようになった。欲望は正確に実現されるのだ。子供が保育園で「ピンポンパン体操」をやっているというので、自分が見ていたリアルタイムの「ピンポンパン」を見せてやったり、私が小さい頃に見た「赤影」の主題歌を一緒に歌ったりする。また昔聴いていたバンドのレア映像がどんどんアップされている。ついさっき、FOCUSの「悪魔の呪文 HOCUS POCUS」のライブ(73年)を見ていたところだ(ヨーデルをフィーチャーしたハードロックで、オルガン&ボーカルのタイスの怪演ぶりが凄い)。FOCUSは高校生のとき(80年代)ライブ・アルバムを愛聴していたが、こんなふうに手軽にライブ映像を楽しめる日が来るなんて夢にも思わなかった。つまり80年代から眺めた70年代よりも、21世紀から眺める70年代の方が比較にならないほどリアルなのだ。

グーグルアースやGPSが空間認識を変えるたように、youtubeは時間や時代の感覚を変えようとしている。大量の動画が集積されることで、結果的に各時代が網羅的にデータベース化され、あたかも脳の中でそうするように、それを意のままに呼び出せる。時間の感覚を喪失させるタイムマシーンのようだとは言いすぎだろうか。

私にとってyoutubeを見ることは記憶を探したり、たどったりするのと同義だ。とりわけロックとかアニメとか、サブカルチャー体験の話だ。サブカル世代はサブカルそのものが記憶や時代感覚を作っているから。「赤影」の主題歌を子供と一緒に歌っていると、奇妙な感覚に襲われる。私と私の子供の関係は、私と私の親のような関係ではない。私と子供のあいだにはメディア体験において連続性がある。しかし、子供の方は特別なものとしてこれに触れているわけではない。私が子供の頃のような番組の選択肢の少ない中でのかけがえのない体験ではなく、無数の情報の中でたまたま出会ったひとつにすぎない。だからyoutubeを時代が刻印された記憶庫のように感じるのは、私の世代的な感慨にすぎないのかもしれない。ポストヒストリーな状況に育った世代にとっては、最初から世界は平面状にデータベース化されている。youtubeはそれをさらに網羅的に徹底させたわけだ。

最近は著作権問題をクリアしながら、新しいビジネスモデルを生み出し、さらにはyoutubeを活用した新たなカルチャー・シーンも仕掛けられている。以前紹介した「テクトニック tecktonik」もそのひとつ。

※この記事は昨年の12月のもの。上でも書いたビデオIDの活用によって著作権派の巻き返しが起こっているようで、youtubeのお気に入り動画が次々と削除されている。「空耳アワー」なんてほとんど消えてしまった。人気番組=コンテンツを著作権によって囲い込むのではなくて、もっともみんなが楽しめるような形で活用できるアイデアはないものだろうか。ただ単に囲い込んでも利益にならないだろうに。

BRUTUS (ブルータス) 2008年 12/15号 [雑誌]

マガジンハウス
おすすめ度の平均: 5.0
5 YOUTUBE特集:マニアックユーザー
による推薦352動画は必見





cyberbloom

rankingbanner_03.gif
↑ライターたちの励みになりますので、ぜひ1票=クリックお願いします!

FBN22.png
posted by cyberbloom at 21:14 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | WEB+MOBILE+PC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック