2009年04月17日

外国語と数(1)

ある本でこんなエピソードが紹介されていました。留学先のアメリカで、周囲から秀才として一目置かれている中国人数学者(もちろん英語も堪能)が友人たちを前にして「じつは、計算をするときは中国語で考えないとうまくいかないんだ」と告白したそうです。計算というのは足し算引き算程度でもけっこう脳をつかうので、そのぶんある程度外国語に堪能であっても、「母国語」でもって計算処理をしてしまいがちなのだとか。当サイトを訪れる方のなかには、外国語に堪能な方もおおくおられると思いますが、みなさんはどうでしょうか?

さて、きょうから数回にわたって「外国語と数」というテーマで、日本語と外国語の「数」のとらえかたの違いを紹介したいと思います。ぼくもフランス語や英語を勉強してきて、国&言語によって「数」のとらえかたが全然違うもんだなぁと感じてきましたが――いい替えれば、いろんな現実世界の分類法があるんだなぁ、と――これからこういったエピソードを紹介していきたいと思います。

* 建物の階数
日本人にとって2階建ての建物というは…、当たり前ながら2階建ての建物のことですが、これが英&仏語では、

・the second floor—2番目の階(米語)
・the first floor—1番目の階(英語)
・le premier etage—1番目の階(仏語)

米語は日本語とおなじ。ところが英語&仏語では日&米でいう「2」階を「1」階ととらえている。ぼくは言語学者ではないので語源などの知識で説明できませんが、仏語の場合、Il est a l’etage「彼は2階にいる」という表現があり、さらにetageを仏仏辞典で調べてみると「建物の床と床の間の空間」とあるので、etageという単語は、複数階でもって作られた建物の存在&地面から離れた床と床の間にある空間の存在とを暗示していて、rez-de-chaussee(地上階=車道とおなじ目線の階)から数えてひとつ目の階をしてle premier etageといってるんじゃないかな。etageに関して仏人にとってみれば、どーんと複数階をもつ建物があってこれが地面から離れていくまず「1」番目の空間が「2」階になってるんじゃないかな。

ただ、米語&英語の場合はどうなのかな。floorには「床」って意味があるし、そもそも「建物の床と床の間の空間」というのなら英語ではstoryって単語があり、しかもこれでもたとえば「彼の事務所は2階にある」というのが表せて、で、この場合His office is on the second story… このあたり、いったいどうなっとるのだろうか。

さらに米語で「1階」が「2階」になった変化の経緯をぼくは知りませんが(「アメリカ人」のことだから、ground floorのgroundのような一般名詞を排除して、一番目、二番目…n番目の「床」というように序数詞だけですっきり表せるようにしたんじゃないかなぁ…)、ただ、米語ではこのほかにも「本家英語」の「数」を変えている例があります。

たとえば、billionという語は米語で「10億」そして古英語で「1兆」(米語→million100万×1000倍、英→million100万の2乗)、trillionは米語で「1兆」そして古英語で「100京」(米語→billion10億×1000倍、英→millionの3乗)。計算がうっとうしいのでほとんどの方が読み飛ばしたと思いますが、おもに英系移民の国である米式では、million=100万に「000(つまり1000倍)」をくわえてかたちで、billion&trillionをあらわそうとしました。すくなくともこの処理のほうが現実的です。イギリスでこの米式の意味がつかわれるようになったのは、さほど昔の話ではないらしいのですが、まぁ使い勝手がいいからでしょう。とにかく、よほど特殊なケースでなければ近世、中世において兆や京なんて桁をつかう機会なんかまずなかったと思います。漢字圏の「無量大数」みたいに宗教的言説でつかわれてたんじゃないかな。

いちおう以上を図示化してみると、

(米式)
1,000,000→100万(million)
1,000,000,000→10億(billion)
1,000,000,000,000→1兆(trillion)

(古英式)
1,000,000→100万(million)
1,000,000,000,000→1兆(billion)
1,000,000,000,000,000,000,→100京(trillion)

ところで、仏語でもbillion→1兆。trillion→100京。さらに、辞書で確認してみるとbillionは古くは「10億」だったのだとか…。もうなにがなんだか。

最後となりますが、ヨーロッパの他言語でも、さきにあげた英&仏式で階数を表示するらしく、これってヨーロッパ言語に共通した建物の階数のとらえかたなのかなぁ…。




superlight

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posted by cyberbloom at 22:28 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス語講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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