2009年01月23日

フランス語版「神の雫」 LES GOUTTES DE DIEU

gouttesdedieu01.jpg来週の木曜にボージョレ・ヌーボーの解禁日を迎えるが、「ニューヨーク・タイムズ」が先月22日、アジアのワイン市場にブームをもたらした20代の日本人青年を紹介していた(※)。4年前に突然姿を現したこの青年は、ワインの歴史が浅いアジアにワインブームを巻き起こし、ワインの売り上げに最も影響力のある人物になったという。しかし、この人物は実在の人物ではない。日本の人気連載マンガ『神の雫』の主人公、神咲雫のことだ。

このマンガは日本から韓国に飛び火し、ワインブームの火つけ役になった。韓国では200万部を売り上げる人気ぶりである。12日に『神の雫』がKAT-TUNの亀梨和也主演でドラマ化されることが伝えられていたが、韓国では一足先に『神の雫』のドラマ制作を進めている。亀梨和也は、父の遺書をきっかけにワインに目覚め、宿命のライバルと対決を繰り広げる主人公を演じるが、韓国版では、ペ・ヨンジュンがワイン評論家、遠峰一青を演じるようだ。来年はドラマ版に刺激され、日本と韓国でワインブームがいっそう盛り上がるかもしれない。

『神の雫』はフランス語にも翻訳されている。写真はフランス版の表紙であるが、フランス語で Les gouttes de dieu という。どのように評価されているか気になるところであるが、由緒あるテレビ雑誌「テレラマ」(2008年7月22日)がこのマンガを紹介している。実はこのマンガ、ワインの本場の専門家の眉をひそめさせるどころか、ワインを語る硬直した言語を根本的に変えてしまうほどの影響力があるようだ。記事に登場する『神の雫』の序文を書いたというパリのワイン大学の教授は非常に時代の変化に敏感な人のようだ。これぞグローバリゼーションという事例であり、絵によって言語の壁を低くするマンガはその媒体として適役であることの証明でもある。また専門家によって権威付けられ、囲い込まれていた領域が一般の人々に解放されるという側面も興味深い。専門家の言葉よりも、より多くの共感を呼び、より多くの人を説得できる言葉の方が価値があるってことだ。

「テレラマ」の記事の一部を紹介してみたい。




専門家の意見によれば、「神の雫」に書かれた多くの情報の信頼性に関して、ほとんど非難の余地がない。ワインのラベルも詳細に描かれ、すべてのエピソードは実話に基づいている。しかしながら、見所は別のところにある。それはこのマンガがそれまで玄人に限られていたワインの世界の門戸を多くの人々に開いたことにある。「神の雫」を出版しているグレナ社のステファヌ・フェランは、「初心者のワイン入門」と「夢中にさせるミステリー小説」を巧みに混ぜ合わせていると解説する。実際、マンガの語りのテクニックの効果をワインの世界に適用することに完全に成功している。

二人の著者(姉弟の樹林ゆう子&樹林伸が「亜樹直」というペンネームで書いている)はワインのデギュスタシオンのために数多くの旅行をしたが、とりわけブルゴーニュを頻繁に訪れた。ときにはブドウ栽培者にはったりをかました。ボーヌ・ロマネの生産者、エマニュエル・ルジェ(彼は2巻に登場するのだが、そのことを知らない)は「彼らには味覚の敏感さと、味見したワインをとても正確に記憶する能力」があったことをまだ覚えている。二人の著者は次のように説明する。「私たちはアジアで広く抱かれているワインのいかめしいイメージを変えたかった」。また、ワインはエリート限定の、洗練され、格式ばった飲み物ではなく、想像力とインスピレーションを広げる飲み物なのだと。私たちは一緒にワインを飲むとき、私たちはそれを描写するための面白いがあまり使われない表現やイメージを探そうとする。それはひとつのゲームであり、その唯一のルールはソムリエの使う言葉を決して使わないことである。

私たちは「ニコラ」(フランスのワイン専門店)の店員がこのマンガのようにムートン・ロートシルトをミレーの「晩鐘」に、プルミエール・コート・ド・ボルドーをクィーンのコンサートに喩えたりするのを想像できないだろう。しかしながら、何人もの神殿の番人の気分を害するようなこの大胆さと冒涜を、何人かの有力者は嫌ってはいない。パリのワイン・アカデミーの教授であり、権威のある百科辞典の執筆者であるミシェル・ドバズは二つ返事で「神の雫」の序文を書くことを引き受けた。「20世紀の初め、ワインを表現する言語は仰々しく、しばしば馬鹿げたものだった。そして次には技術的で、学問的な、とっつきにくいボキャブラリーに移行した。ワインがそういうものすべてから抜け出し、このマンガのようにオープンかつ現代的にアプローチするのは良いことだろう。かつてドビュッシーは−音楽は習得されるものではない。楽しむことがルールなのである−と言った。ワインについても同じだ」と教授は言う。

すでに14巻を数えるこのシリーズは日本で成功を収めているが、同様に中国や韓国を熱狂させている。予想しなかった結果である。マンガの中で名前が挙がったワインはパブロフの犬のような反応を引き起こしている。つまりマンガで見たら欲しくなるのである。シャトー・モン・ペレア(2001年)はボルドレのドメーヌでは名高いものではないが、それがマンガで賞賛されると注文がピークに達する。マンガが出て2日後には台湾のワイン輸入業者がすばやくそれを50ケースを買っていき、日本では当日で売切れてしまう。

この新しい渇きの恩恵を受けているのはフランスワインであるが、とりわけこのマンガの中でもてはやされているブルゴーニュワインである。このマンガに対する韓国の熱狂はもの凄く、「神の雫」の前と後では全く状況が変わった。ブルゴーニュワインの輸出を取り仕切る事務所の責任者、ネリー・ブロ=ピカールは次のように言う。「2006年に「神の雫」が出て以来、ブルゴーニュワインの売上は130%増えた!ソウルで花開いているワインバーにマンガを脇にはさんだ客が欲しいワインの絵をそのまま見せることも珍しくない。去年、私たちはこのマンガをめぐって起こったことを知らずに、韓国にフランスワインを売り込みに行った。一日のあいだに私たちは40の企業から900人以上の訪問を受けた」。

美味しいワインの栓を抜きたくなるマンガ、これよりも素晴らしい幸運を夢見ることは難しい。あとは、フランスにいる日本のマンガの読者の大多数を構成する水やソーダしか飲まない人たちがこの現代的なトロイの木馬に影響されるか知るだけである。


UN MANGA DU MEILLEUR CRU 22 juillet 2008 Télérama n.3049
par Stéphane Jarno


※このエントリーは08年11月16日にmain blogにアップしたものです。


神の雫 (1) (モーニングKC (1422))
亜樹 直 オキモト シュウ
講談社
おすすめ度の平均: 4.5
5 何故クイーンの演奏がLPレコードなんだ?
2 ワインを知るにはいいかも。
3 お隣の韓国でなぜか大人気らしいですよ。
5 美味しんぼのワイン版?
4 ゆうきゆうさんのレビューの方が面白かった。




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posted by cyberbloom at 18:38 | パリ ☔ | Comment(0) | TrackBack(1) | マンガ+アニメ+BD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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デギュスタシオン―男と女とワインの15の物語
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