2009年01月14日

料理人〜狐野扶実子(このふみこ)

狐野扶実子さんをはじめて知ったのは偶然観た2004年放送の「情熱大陸」でした。

konohumiko01.jpgこのとき彼女は34歳の出張料理人。パリやニューヨークを行き来し、シラク大統領夫人をはじめとするセレブたちのパーティを成功させたり、アメリカの経済界のVIPの自宅で腕をふるい、舌の肥えた彼らをうならせているという内容でした。彼女は結婚後、ご主人の赴任先だったパリに渡り、パリの料理学校コルドンブルーを首席で卒業した後、パリの(現在はミシュラン三ツ星レストラン)「アルページュ」に飛び込みで働くうち、あっという間にスーシェフにまでなり、独立をして出張料理人になりました。彼女はその30分という短い番組の中でも凛とした佇まいで、多くを語らない、そしてしなやかな強さを感じさせる人で、料理に関して決して妥協せず、素材に真摯に向き合い、彼女自身を表すかのようなシンプルな料理を作るのでした。彼女の料理を口にした人は素材自体の美味しさに驚き、そしてそれをパーフェクトに引き出す彼女の料理テクニックに驚くのです。

番組を観た後、若くしてこんな技術を習得した彼女ってどんな人なんだろう、と気になる存在になりました。ただの「料理の天才」ではない、なにか彼女の魅力らしいものに惹かれるのです。その後雑誌などで紹介されることも増えましたが、先日書店で目に付いたこの本を手に取り、少し彼女が見えてきたように思いました。

この本は彼女が著者ではなく、彼女へのインタビューをエッセイ風に文章にしたものですが、装丁もシンプルで美しく、ついつい手が伸びてしまう本なのでした。

彼女の幼少期にあった親戚のおじさんとの料理体験から始まり、フランスとの出会い、結婚、料理を職業にしていくまで、そして現在が、静かに淡々と語られています。しかしこの本を読めば、彼女が料理の才能に恵まれていただけではないことがわかります。

結婚する以前にパリに留学したときには語学学校を掛け持ちして、ただひたすらフランス語を勉強したこと。コルドンブルーではルセットに書かれていることがどうしてそうなのかを理解できるまで、何度も何度も時間をかけて料理したこと。そんなことから他人より時間が掛かりすぎてしまうことも次第に努力でカバーしていったこと。そして、飛び込みで働き始めた「アルページュ」では掃除係から始め、周囲のみんなが無理だろうと思う作業も手間を惜しまずやり遂げ、常に確実に、遠回りでも誠実に料理に向き合い、次第にオーナーシェフ「アラン・パッサール」に認められるようになっていくのでした。

「アルページュ」のスーシェフになるという誰もがうらやむ状況になっても、人気店であることの忙しさや人を管理していかなければならない立場のため、「料理をすること」から遠ざかってしまうことを嫌い、彼女はあっさりと辞めてしまいました。そして彼女は自分の作った料理に対する反響がダイレクトに伝わる、自分の想いがそのまま料理として伝えられる方法として「出張料理人になること」を選んだのだと思います。

料理は作った人の人となりが現れるといいます。私は彼女の料理を食べたことがありませんが、彼女の料理は、きっと彼女の素材に真摯に向き合う姿勢(彼女が子どもの頃に五感で培ったものがベースになっている)や決して独りよがりなものではない、彼女自身が会得してきた料理の技術をただひたすら忠実に使うことで生み出される、彼女自身の生き方のようなものかもしれません。

この本には彼女は現在、フランス・フォション社に請われて就任したエグゼクティブシェフを辞めた後、また出張料理人の立場に戻ったとあります。これから彼女がどんなことをしてくれるのか?も楽しみですが、残念ながら数多くではない人たちに、彼女の料理という感動を静かに作り続けることだけは間違いないと思います。



フミコのやわらかな指―料理の生まれる風景
狐野 扶実子
朝日出版社
売り上げランキング: 72265
おすすめ度の平均: 4.0
5 私にとっては最高の料理本です
2 すごい人なのは、わかるが。
3 情熱。
5 「食べるをまなぶ」より




mandoline

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posted by cyberbloom at 23:53 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フレンチ・ライフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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