2009年12月21日

クリスマスソング雑感

みなさんがクリスマスに聞く音楽について書いているのを読んで、僕もちょっと書いてみたくなった。なんといっても、僕が初めて「自分のレコード」を買ってもらったのは、幼稚園のとき、小林亜星作曲の「あわてんぼうのサンタ」などが収録されていたクリスマスのLP盤だったし、その影響なのか、十代の頃、クリスマスソングを集めるのに熱中したことがある。ラジオで流れる曲を片っ端から「エアチェック」して、カセットテープに録音した。だから、ぱっとしない曲も含めて、クリスマスソングは今でも気にかかる。

Do They Know It's Christmas?そんな数あるクリスマスソングのなかでも、バンドエイドの"Do They Know It's Christmas?" (1984)は、やはり印象深い一曲である。エチオピア飢饉の救済を目的としたチャリティー・レコードで、植民地の歴史に関してイギリス人が抱える後ろめたさに訴えた、多分に政治的な歌だった(「僕らが暖炉の前でプレゼントの包みを開けて喜んでいるとき、飢えに苦しむ彼らは今日がクリスマスだということを知っているだろうか」)。これを真似してアメリカで作られた"We Are The World"の無責任な博愛讃歌と較べると、さすがに懐が深い。一昨年、ボノの提唱でリメイク盤がリリースされたが、当時のような反響は得られなかった。

Band Aid / Do they know it's christmas

2000年の冬、フランスでもエイズ撲滅キャンペーンの一環として、"Noël Ensemble"という曲が発表された。ジョニー・アリデイを筆頭に、フランスの人気歌手が多数参加するあたり、いかにも"Do They Know It's Christmas?"を模したようだが、ラジオで聞いて思わずふきだしてしまった。というのも、R&B風のバラードに、フランス語がまったく合っていなかったからだ。どうも、フランス語という言語は、ゴスペル風に歌い上げるには不向きだ。これは、アメリカ音楽の模倣の無惨な結果である。もちろん、それは日本のポップスにも多分にあてはまることで、笑ってばかりはいられないのだが。(こう書きながら、僕は大澤誉志幸がかつてプロデュースしたクリスマスアルバム”Dance To Christmas”(1988)を思い出している。)

Les Enfoirés / Noël ensemble

ホワイト・クリスマス単なるそりレースの応援歌だった”Jingle Bells”が、なぜかクリスマスソングの定番になってしまうようなこともあるが、クリスマスキャロルとは、そもそも教会で歌うためのものである。教会には家族で出かける。だから、クリスマスキャロルとは家族の歌でもある。独特の不協和音コーラスで知られるグルジアでは、逆にクリスマスイブの夜に男だけの合唱隊が村の家々を回り、軒先で神の祝福を祈るalilo(hallelujahの転訛)を歌う伝統がある。村人はお礼に合唱隊にプレゼントを渡す習わしだそうだ。なんだかハロウィンの"Trick or treat"と、江戸時代の新年の「鳥追い」が混ざったみたいで、面白い。

家に帰ることができず、遠い家を思い浮かべながら歌ったクリスマスソングが、ビング・クロスビーの『ホワイト・クリスマス』だ。冒頭の歌詞に注意しよう。”I’m dreaming of a white Christmas/ Just like the ones I used to know.” じつは、歌い手は戦場にいて、雪降る故郷を思い浮かべているのである。ミュージカル映画『ホワイト・クリスマス』は、戦場の慰安演奏会から始まる。クロスビー扮する歌手がこの曲を歌い出すと、みんなが南国の太陽の下(ということは日本軍との戦闘に駆り出された兵士たちだ)、しんみりする。映画の後半は、退役軍人の失業問題を扱っている。クリスマスは、子供には夢にあふれているが、大人には、社会の矛盾がひしひしと感じられる季節だ。このことは、アメリカでは毎年この時期になるとテレビ放映されるクリスマスの古典的名作『素晴らしき哉、人生』(It’s A Wonderful Life)を見ても思うことだ。フランク・キャプラ監督によるこの白黒映画は、大恐慌時代のヒューマニズムの傑作として知られている。冒頭の、雪降る町を俯瞰で撮った映像に、子供たちが父の身を案じてお祈りする声が重なる場面が、もう胸が痛むほど美しい。

Bing Crosby / White Christmas

クリスマス・イブTino Rossiの”Petit Papa Noël”も、もともとは1946年の映画『運命』の挿入歌だった。以後、この曲は今日に至るまで、フランスで育った子供なら誰でも知っている定番中の定番となった。歌詞は、子供がサンタクロースにプレゼントをお願いする無邪気な内容にすぎない。おそらく各国に、こうした知られざるクリスマスの定番があるのだろう。ちょうど日本では、好き嫌いは別にして、山下達郎の「クリスマス・イブ」を知らない人はいないように。だが、「クリスマス・イブ」の間奏の一人アカペラがパッヘルベルの「カノン」であることに気づいていない人も、意外に多いかもしれない。教会音楽を育んだバロック期の名作をさりげなく滑り込ませることで、山下達郎は自分がクリスマスソングを作ることの正当化を図った。つまり、彼のコーラスのルーツが黒人ドゥーワップにあり、そのルーツがゴスペルであることを、山下はあの間奏で見事に要約してみせたのである。もし「クリスマス・イブ」に”Noël Ensemble”に感じたような滑稽さがないとすれば、それはそうしたクリスマスをめぐるルーツ継承と関係があるのかもしれない。

Tino Rossi / Petit Papa Noël
Tatsuro Yamashita / Christmas Eve

などというところまで追究しなくても、クリスマスソングを聴くと、いろいろ感慨に耽ってしまうものである。単に年の瀬だからかもしれないが。さて、今年のクリスマスは何を聴こうか。CD棚を眺めるのも、またこの季節の楽しみである。



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posted by cyberbloom at 21:45 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | Musique pour…のための音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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