2008年12月02日

「バッファロー'66」

バッファロー'662005年に注目された本のひとつに、ロバート・パットナムの「孤独なボウリング」がある。アメリカではひとりで孤独にボーリングをする人が増え、その姿はアメリカ社会が人間のつながりに乏しい社会であるかを象徴しているのだという。社会的な信頼や市民参加の衰退は、経済的停滞、不平等拡大、犯罪増加、健康不安、学力レベルの低下へと連動していく。パットナムはテレビなどの個人的な娯楽メディアが社会不信の要因のひとつと考える。個人の娯楽や個人の利便性の追求は、まず社会の最小単位である家族を破壊してしまうのだ。ボウリングはみんなで楽しむレジャーのはずだが(私も学生のときよくやった)、アメリカでは孤独でナルシスティックなゲームに成り下がってしまったようだ。

1999年にアメリカのコロラド州のコロンバイン高校で銃乱射事件が起こった。トレンチコート・マフィアと自称する同校の2人の生徒が銃を乱射。12名の生徒および1名の教師を射殺したあと、2人とも自殺した。その2人の少年は当日の朝6時から事件を起こす直前までボウリングに興じていたという。

この事件を題材にした映画にガス・ヴァン・サントの「エレファント」があり、マイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」がある。ムーアが事件とボウリングを結びつけたのは、「犯人たちがマリリン・マンソンに悪い影響を受けた」として保守系メディアから槍玉に挙がったにもかかわらず、犯行の直前までプレイしていたボウリングの影響が論じられないのはおかしいと考えたからだった。

アメリカは巨大な田舎といわれ、それを壮大なフィクションとギミックがコーティングしているわけだが、その日常の素顔は意外にさみしい。そんな日常を淡々と映し出す佳作がある。ヴィンセント・ギャロが監督・主演をしている「バッファロー '66」もそういう作品だ。

この映画の主人公のビリーもまたボウリング好きである。ボウリングの細部にこだわり、ひとりよがりなノリを見せる。アメリカ人の「孤独なボウリング」とはこういう感じなのかとリアルに納得される。ビリーは人を信用しない、他人を寄せ付けない、神経質な男だ。行きずりのコギャルキャラの少女、レイラが意外な包容力で、その男の頑なな心を溶かしていく。

ヴィンセント・ギャロはミュージシャンでもあるが、この映画の音楽の使い方も衝撃的。ボウリング場でレイラが KING CRIMSON の Moon Child でタップを踊り、YES の Heart of the Sunrise が下品なストリップ・バーで鳴り響く。映画にプログレを使うこと、そしてありえないシーンで使うこと。二重の裏切りに唖然とさせられた。

BAFFALLO '66 TAP TO MOONCHILD OF KING CRIMISON
HAERT OF THE SUNRISE / Yes

バッファロー'66
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のファニーさを!
3 ラストが良かった



cyberbloom

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posted by cyberbloom at 21:33 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(2) | 日本と世界の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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