2008年11月06日

SOME VELVET MORNING

90年代、プライマル・スクリームは私の最も重要なアイドルで、「Screamadelica」は90年代のベストアルバム。ライブにも2、3回行って踊り倒してきた。



今回紹介する Some Velvet Morning は2002年にプライマル・スクリームがケイト・モスと組んだコラボ曲。この曲が入っているアルバム「Evil Heat」を含め、最近のプライマルはあまり食指が動かないのだが、このビデオクリップは衝撃だった。薬物スキャンダルでモード界を干されそうになったこともあるバッド・ガールなケイト・モスのヴィジュアルがたまらなく良い。モスは moss であって moth ではないのだが、彼女は蝶よりも、毒のあるサイケな蛾のイメージ。こういう蛾ならば毒まで食らってみたいと思わせる。毒々しくも美しい映像ドラッグのようなヴィジュアルを身にまとえるのは彼女しかいない。

Some Velvet Morning という曲のタイトルがすでに想像力をかき立てるが、この曲、実は1967年に書かれたサイケポップで、最初にリー・ヘーゼルウッド&ナンシー・シナトラ Lee Hazlewood & Nancy Sinatra によって歌われた(ナンシーはもちろんフランク・シナトラの愛娘)男女の掛け合いによるデュエット曲で、彼らのヒットのあとも、男女のデュオによってカバーされてきた。選曲眼とカバーのセンスもプライマルならではだ。

Some Velvet Morning - LEE HAZLEWOOD & NANCY SINATRA

ヘーゼルウッド&シナトラのビデオは、テクノロジーを駆使したプライマルのビデオとは全く違ったやり方でサイケを演出している。ある意味、こちらの方が訳わかんなくてインパクトがある。胴の長い馬にまたがり、浜辺を走るヘーゼルウッド、これまた時代を感じさせる服とヘアスタイルのシナトラが、交互に歌いながら異様なムードを高めていく。今で言うシューゲイザー系の SLOWDIVE もこの曲をカバーしているが、こちらの方が原曲の雰囲気を残している。

katemoss01.jpg詩の内容はサイケな曲によくあるように曖昧な内容なのだが、男のパートがフェードラと呼ばれるミステリアスな女を描き出し、そして女のパートは次のように歌う。

Flowers growing on the hill
Dragonflies and daffodils
Learn from us very much
Look at us but do not touch
Phaedra is my name

私たちを見て、でも触れちゃだめ。私の名前はフェードラ。

「私たち」と「私」の関係がどうなっているのか不明だが、ケイトのクールな表情と挑発的な動きに対して、ボーカルのボビーの絶望的なポーズが対照的だ。歌い、見つめるだけの男。見つめれば見つめるほど、歌えば歌うほど、距離は縮まらず、美しく魅惑的な対象にはいつまでも届かない。

フェードル(Phèdre)」と言えば、フランスは17世紀の劇作家、ジャン・ラシーヌ作の悲劇として有名だ。同じギリシャ神話をネタにしているとはいえ、こちらのフェードルは、女性の恋愛心理を描くことにおいて並ぶものはいないと言われたラシーヌの手によってキャラクター造型を施され、悲劇の傑作にまで高められた。こちらはこんなストーリー。

若い後妻フェードルは許されぬと知りながら義理の息子イポリットへの恋に狂い、イポリットとアリシーの清純な恋をまのあたりにして、今度は激しい嫉妬にもだえる。フェードルは自分の罪をはっきり自覚していて、それを退けようと必死に努力するが、激しい情念に狂い立つ中で、自分の意志の無力さを悟り、破滅へと落ちていく。

フェードルは、情念のままに翻弄される惨めな姿をさらすわけだが、彼女は他人を不幸にしながら、実は彼女自身も自分の衝動の犠牲者である。自らの情動の炎で相手も自分も焼き尽くしてしまう。

見つめれば見つめるほど、記述すればするほど対象に疎外されていく感じは文学少年にありがちな体験だし、一方で、恋愛体質の人間には相手も自分も不幸に陥れる、どうしようもない情動にも覚えがないわけがない。

ところでケイト・モスの黄金像が大英博物館にお目見えした。重さにして50キロ。現代彫刻のアート作品らしいが、それにしてもあんまりな姿。





cyberbloom

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posted by cyberbloom at 20:14 | パリ 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | Musique pour…のための音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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