2008年10月20日

宮廷料理人ヴァテール

宮廷料理人ヴァテール映画の中には料理が主題になっているもの、料理をするシーンや食事風景がキーになっているものが案外あります。今まで観た映画の中で、私の記憶に残る「料理のある映画」を紹介したいと思います。まずは<宮廷料理人 ヴァテール>。題名がそのまま“ど真ん中”の映画です。

料理やお菓子の名前には由来のあるものが少なくありません。例えば、生クリームに砂糖を加えて泡立てたホイップクリームは「クレーム・シャンティイ」と呼ばれていますが、「シャンティイ城」からその名前が付けられたと言われています。シャンティイ城を舞台にした映画、<宮廷料理人 ヴァテール>はそんなことからついつい観てしまった映画です。

「キリング・フィールド」や「ミッション」のローランド・ジョフィ監督がフランス映画史上空前の40億円を投じ、フランスを代表する俳優ジェラール・ドパルデューを主役に配し、絢爛豪華シャンティイ城で繰り広げられた3日間の大饗宴を描いた史劇ですが、公開当時、日本ではおりしもグルメブーム、豪華美食映画を期待した人たちの多くは歴史的背景の勉強不足(私も含めて)もあってその描き方にちょっと期待はずれを感じてしまったかもしれません。

…ルイ14世(ジュリアン・サンズ)の治世下の1671年、フランス宮廷で起こった内乱=フロンドの乱で国王を裏切った形となり、重職から遠のいていたコンデ大公(ジュリアン・グラヴァー)は国王の信頼を取り戻すべく、チャンスを覗っていたそんな時、国王の臣下ローザン公爵(ティム・ロス)から、大公の居城シャンティイ城に国王が3日間滞在すると聞いた。大公は莫大な借金をし、5万エキュ(当時の貨幣価値を今の日本に置き換えるとなんと3兆円以上!)をかけて、国王と500人以上の廷臣を3日間の饗宴でもてなすことにする。そこでコンデ大公は名料理人フランソワ・ヴァテール(ジェラール・ドパルデュー)にヴェルサイユ以上のもてなしをするよう依頼する。ヴァテールは料理のプランを立てるだけでなく、3日間にそれぞれのテーマを設け、国王が当時凝っていたといわれるバレエ・オペラ・芝居を取り入れた演出を試み、準備期間が短かったにもかかわらず、饗宴の総合プロデュースをやってのける…自らの命を懸けて。

完璧を追求するあまり絶望し、主人への忠誠そして自らの誇りのために絶望したヴァテールは死をもって決し、その料理ではなく、彼の生き方そのものが伝説になりました。事実、約100年後に登場する本当の宮廷料理人アントナン・カレームや19世紀に登場する現代フランス料理の父とされるオーギュスト・エスコフィエのように、彼のレシピはほとんど残っていません。現代のフランスで、彼の名はもちろん偉人として知られていますが、料理人としてのそれではなく、信念を貫いた潔いその責任の取り方に美学を感じる偉人としてなのです。

映画の中で私の期待通りのエピソード(宴の最中、カスタードクリームを作る為の卵が腐ってしまい、機転を利かせたヴァテールは、手元にあったクリームに砂糖を加えて泡立て「クレーム・シャンティイ」を作ります。)はありましたが、このこと自体もあくまで伝説に過ぎないらしいのです。しかし映画で描かれているヴァテールのめざましい活躍はそんな機転の数々ばかりでなく、料理の材料の手配から始まり、支払いを含めた金策にまで追われ、私の想像していた宮廷料理人とは思えない働きぶりなのでした。そして彼は料理ばかりでなく、国王を喜ばせる為の舞台演出までをこなし、3日間の饗宴を総合芸術にまで高めていきます。彼にとって料理とは自分の持っているすべてを傾ける情熱の表現であり、美味しいものを作って客を喜ばせること、驚かせることにとどまらないもの、そして唯一彼の生き方に共感する女官アンヌ(ユマ・サーマン)への愛を伝える手段であることが伺えます。宮廷内のどろどろした権力闘争や思惑、さまざまな人々の愛憎劇などとは違うステージで生きる、懸命な彼の生き方が浮かび上がってきます。

というわけで私が勝手に想像していた「宮廷料理人像」や「豪華宮廷料理」は描かれていませんでした。映画としてはその当時の風俗・衣装、美術が素晴しく再現されていることはもちろん感動に値しますが、それぞれの人物の描き方が単純であることやストーリー展開が意外と単調でした。そのため、ティム・ロスやユマ・サーマンといった個性的な俳優たちの印象があまり残らない映画になってしまっているのも残念です。「眺めのいい部屋」のジュリアン・サンズ(私にとっては懐かしい〜)が上品なルイ14世を演じていたのが救いでしたが…

世界史の授業を受けるよりはもちろん?勉強になりそうですし、単純にルイ14世になった気分で3日間の大宴会を楽しんでみてはいかがでしょう…(現実には手元に豪華フランス料理が出てこないのが何より悲しいですけれど。)それにしても当時最高峰の料理が作られていた厨房の、お世辞にも清潔とはいえない環境には驚かされますが、そんな中から世界に誇るガストロノミー(美食)は生み出されたのですね。


宮廷料理人ヴァテール
アミューズ・ビデオ (2001-06-22)
売り上げランキング: 14770
おすすめ度の平均: 3.0
3 我々には想像も付かない
フランス絶対王政最盛期の宴
3 むむむ!
2 セットや衣装は豪華。おののき。
5 明暗、表裏。
1 料理人の話に強引に持ち込まれた陰謀



mandoline

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posted by cyberbloom at 19:38 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(1) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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