2008年10月10日

「ウィークエンド・ア・パリ」− 優雅なタイトルの裏のドタバタ生活

ウィークエンド・ア・パリ,すなわちパリでの週末.
口にするだけで(といっても口は閉じたままで手を動かしているだけなのだが)思わず恥ずかしくなってしまうようなお洒落な響きである.

午前零時を過ぎても客足の絶えることのないサンジェルマン・デ・プレのカフェ.
あるいは,日曜日の午後のリュクサンブール公園.

Weekend a Paris(ウィークエンド・ア・パリ) パリ季記―フランスでひとり+1匹暮らし (天然生活ブックス) パリ通信

パリの週末にいかなるイメージを付与しようとそれはもちろん各人の自由である.
とはいえ,「パリの週末」とうっかり口にしてしまうものなら,それがいかなる条件の下であれ,絶対的にお洒落でなくてはならない,といった強迫観念に近いものを感じてしまうことも事実である.

猫沢エミの「Weekend a Paris(ウィークエンド・ア・パリ)」は,そうしたイメージを見事に裏切ってくれるパリ生活日記.

「ウィークエンド」とタイトルに入れているものの,実際のところ著者がブログで発表していた日記を収録した本であるので,記述は週末だけを対象にしているわけではない.
むしろ週末という非日常の時間よりも週日の日常生活の記述の方に重点が置かれているように思う.

2002年,東京でミュージシャンとして活躍していた著者はパリに移住する.
そして,このお洒落の代名詞ともいえるフランスの首都にて予期せぬ事態に次々と遭遇することになる.

念願のプジョー・ヴォーグ(ペダルのついたスクーター)に乗ればガス欠となり,ガソリンスタンドを求め街を彷徨う.
アパートでは何の予兆なく唐突に天井が落下する.

当たり前といえば当たり前だが,花の都での生活は,バラ色ばかりというわけではない.

著者の記述が数ある著名人/芸能人のパリ滞在記と異なるのは,そのユーモラスな筆致にある.
笑いのセンスとしては,意外にも椎名誠の自伝エッセイのノリに近い.

とりわけ不幸な事件に遭遇したときの記述は圧倒的で,病気になったときのエピソードなど抱腹絶倒もの.
お洒落で優雅なタイトルの裏のドタバタ生活.

勝手な幻想を抱きがちな街での生活記としては,極めてリアリティーの高いものになっているのは,そうした著者のユーモアセンスによるものだろう.
説得力のある話題とは,言うまでもなく個人的な体験に基づいたものでしかあり得ないのだから.



キャベツ頭の男

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posted by cyberbloom at 07:22 | パリ ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評−フレンチ・ライフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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