2008年09月12日

パリに蝉は不在である

8月も終わりである。
つい1週間ほど前には、まだ大きく聞こえていた蝉の声も、すっかり弱々しいものになり、あと数日のうちに消えていくことだろう。
はかないものである。

Wikipediaで「蝉」の項をみてみると、いくつか「トリビアの泉」的なトリビアルな情報が記されていたので、ここに紹介したい。

summer01.jpgまず、地上に現れてからの生存期間について。
子供の頃、「蝉は成虫してから1週間しか生きられないのだ」と周囲の大人たちから言われ、子供心に「もののあはれ」を感じたものだが、ウィキによると、成虫となった後の生育期間は、野外でおよそ1ヶ月ということらしい。
意外と長い。

また、イソップ童話の「アリとキリギリス」の物語は、ギリシアで編纂された原話では「アリとセミ」の物語であったとのことである。
緯度の高いヨーロッパでは、地中海沿岸を除き、セミは生息しておらず、物語が伝播する過程において、北方でも生息する「キリギリス」に置き換えられたそうだ。
確かにテレビも写真もない時代、知らない昆虫が物語に登場しても、今ひとつピンとこないだろう。

さらにウィキには、次のようなことも書かれていた。
書き直すのが面倒なので、以下カッコ内は直接引用である。

「明治維新の時、日本にやってきたヨーロッパ人はイタリアや南仏などの地中海沿岸地域出身者を除くとセミを知らないものが多く、「なぜ木が鳴くのか」と尋ねたものもいたという。現在でも、日本のドラマを欧米に出すとき、夏の場面ではセミの声を消して送るという。日本ではいかにも暑い盛りのBGMと感じられるが、あちらでは妙なノイズが乗っていると思われる場合が多いという。」

「なぜ木が鳴くのか?」

なかなか微笑ましい台詞である。

そういえば、かつて留学していた頃、夏のパリで何か物足りないと感じていたら、セミが全く鳴いていないことに気が付いた。
空気も乾き、ヴァカンスで人口が著しく減少した8月の街は快適である。
しかし、幼少の頃より聞いていたセミの声が全く聞こえてこないことに、物足りなさを感じたのも事実である。

ちなみにフランスでは、「アリとキリギリス」の物語は、原話の通り「アリとセミ」の物語として伝えられている。
ラ・フォンテーヌの寓話集に収められており、この物語を知らないフランス人は皆無と言ってよいくらいに有名な話らしい。

地中海に接するフランスでは、「セミ」という昆虫の認知が古くよりあったようだ。

古代ギリシア・ローマでは、「セミ」は「無頓着さ」や「のんきさ」の象徴であったらしく、イソップ童話での「セミ・キリギリス」のお気楽な様子は、この昆虫の持つ文化的イメージに即している。

所変われば品変わる。

文化的な差異に関するエピソードは、いつも興味深い。



キャベツ頭の男(2007年8月29日-main blog)

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posted by cyberbloom at 18:17 | パリ ☔ | Comment(2) | TrackBack(0) | バーチャル・バカンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
興味深く拝見しました。

>地中海に接するフランスでは、「セミ」という昆虫の認知が古くよりあったようだ。

これはあくまでも南フランスでの話ですよね。現在に至るまでセミがどんな昆虫か知らない(北の)フランス人は多いと思います。ラ・フォンテーヌ自身も北のシャンパーニュ地方の出身でした。

cigaleという言葉は知っていてもそれが具体的にどんな昆虫を指しているのかを知っているとは限りません。試しにLa Cigale et la FourmiでGoogle画像検索をすると、いろいろなcigaleの画像が出てきて興味深いと思います。
Posted by 江花輝昭 at 2013年08月01日 09:30
江花さん、コメントありがとうございます。ライターはおそらく地中海に近いフランス=南フランスの意味で書いたのだと思います。これからもご贔屓に!
Posted by cyberbloom at 2013年08月06日 00:10
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