2008年09月09日

「フランダースの犬」の現在

ベルギー北部フランドル(英名はフランダース)地方在住のベルギー人映画監督が、日本で人気アニメになっている「フランダースの犬」を検証するドキュメンタリー映画を去年完成させた。その映画が、物語の主人公ネロと忠犬パトラッシュがクリスマスイブの夜に力尽きたアントワープの大聖堂で、去年の12月27日に上映され、話題を集めた。映画のタイトルは「パトラッシュ」で、監督はディディエ・ボルカールト。制作のきっかけは、大聖堂でルーベンスの絵を見上げ、涙を流す日本人の姿を見たことだったという。

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物語では、画家を夢見る少年ネロが、放火の濡れ衣を着せられて、村を追われ、吹雪の中をさまよった揚げ句、一度見たかったこの絵を目にする。そして誰を恨むこともなく、忠犬とともに天に召される。原作は英国人作家ウィーダが1870年代に書いたが、欧州では、物語は「負け犬の死」(ボルカールト氏)としか映らず、評価されることはなかった。米国では過去に5回映画化されているが、いずれもハッピーエンドに書き換えられた。悲しい結末の原作が、なぜ日本でのみ共感を集めたのかは、長く謎とされてきた。ボルカールトさんらは、3年をかけて謎の解明を試みた。資料発掘や、世界6か国での計100人を超えるインタビューで、浮かび上がったのは、日本人の心に潜む「滅びの美学」だった。

プロデューサーのアン・バンディーンデレン氏は「日本人は、信義や友情のために敗北や挫折を受け入れることに、ある種の崇高さを見いだす。ネロの死に方は、まさに日本人の価値観を体現するもの」と結論づけた。

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以上は、読売新聞「『フランダースの犬』日本人だけ共感…ベルギーで検証映画」(2007年12月25日 )の記事からの抜粋。「滅びの美学」なんてありがちなオリエンタリズムでしかないが、多くの日本人はそう言われると納得するのだろう。むしろベルギーまできて、日本的なコンテクストによって強引に外国を見ようとするメンタリティーの方が興味深い。

それ以前にも「フランダースの犬」に興味を持ったベルギー人がいた。「世界名作劇場」で「フランダースの犬」がテレビアニメ化されたのは1975年のことだが、ベルギー観光局のヤンさんという人物が「フランスダースの犬」の舞台はどこですかと訪ねる日本人観光客があまりに多いので不思議に思い、調べてみたところ、イギリス人作家ウィーダが書いた小説(1872年)の存在を知った。ヤンさんは、ネロが牛乳を運んでいた運河沿いや、どのあたりから教会の塔が見えてくるとか、小説のいくつかのシーンから「フランスダースの犬」の舞台を割り出した。それがフランスダースのホーボーケンであることが判明。1986年、そこにネロとパトラッシュの銅像が建てられた。また観光案内所には牛乳を運ぶ車や関連本も展示されている。

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その銅像から2キロくらい離れた小学校の校庭には、アニメのトレードマークにもなっている風車小屋の6分の1の模型もある。

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アントワープのノートルダム寺院は「フランスダースの犬」のラストシーンの舞台だが、有名なルーベンスの絵の前でネロとパトラッシュが天に召される。ノートルダム寺院の正面には2003年にトヨタが寄贈した「フランダースの犬」の記念碑がある(いちばん上の写真)。記念碑には「フランダースの犬、この物語は悲しみの奥底から見出すことが出来る本当の希望と友情であり、永遠に語り継がれる私達の物語なのです」と刻まれている。夜になると円形の部分がライトアップされて日の丸が浮かび上がるという趣向になっているが、記念碑には常に犬がオシッコをかけていくらしい。ルーベンスの絵はネロの時代と同じく、未だに有料で、鑑賞の終了時間も早いようだ。早めに行って見ておかないと、うっかり見逃すこともあるとのこと。


□ベルギーは北部(フランドル)がオランダ語圏、南部(ワロン)がフランス語圏と二分されている。
□この記事の後半部はベルギー文化を研究なさっているK大学K学部のI先生から伺ったお話をもとに構成した。写真もご提供いただいた。
□ドキュメンタリー映画「パトラッシュ」の使用言語は主にオランダ語。日英の字幕付きDVDがインターネットなどで販売されている。1時間25分。
□映画のサイト「Patrasch, a dog of Flanders, made in Japan」 
映画の予告編
□「フランダースの犬」に関してはサイト A Dog of Flanders が超詳しい。




cyberbloom

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posted by cyberbloom at 11:31 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ+アニメ+BD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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