2008年08月26日

森山大道,圧倒的な速度

犬の記憶 (河出文庫)東京都写真美術館において,5月13日(火)より大規模な森山大道展が開催される.
展示は2部構成となっており3階展示室では1965年から2005年まで,40年間の撮影活動を総括するレトロスペクティブが,2階展示室では2004年より撮影が開始され,昨年ようやく出版された「ハワイ」からの作品が展示される.

森山大道がそのエッセイで自らを示す際,しばし停滞したイメージを付与する.
例えば「犬の記憶 終章」の巻頭「パリ」で次のように語る.

「ぼくは東京に居ても普段,べつに映画館に入ることもなく,芝居や演劇を観にいくこともなく,コンサートなどを聴きにいくこともなく,評判の展覧会を観ることもないといった風で,およそそうしたことに関心がない.
こんな感じは,パリに居ても変わることがなく,見物らしきことや鑑賞らしきことなどなにひとつしなかった.
それはぼくにしても,ルーブルのごく一部とオルセーぐらい覗いたことはあるけれど,まあどうってこともなかった.
(…)
では毎日何をしていたのかといえば,結局街なかをふらふらとあてどなく歩いて街角にカメラを向けているか,どこかのカフェでぼんやりと煙草を吹かしているか,さもなくば駅へ遊びにいっていた.
(…)
いくつかの駅は,ヨーロッパ各国からの国際列車が到着するので,さまざまな国から来た乗客たちが駅にひしめく.
ごったがえすコンコースやプラットホームの人群れのさなかに,ぼくもそっとまぎれこんでみる.
スナップ撮影をするときもあるが,ただなんとなく一緒に歩いているだけのことが多かった」

それにしても,ここで描かれている滞留感とその作品が内包する圧倒的な速度との対比には,ただただ驚かされる.
写真とは,1/60秒であれ1/4000秒であれ,刻々と流れていく時間をフィルム上に静止させることによって成立するが,森山大道の作品を前にしたとき人が感じるのは,その作品が含む疾走感ではないだろうか.

写真よさようなら1972年に出版された中平卓馬との「写真よさようなら」など30年以上経過した今日でも圧巻だが,90年代,特にヒステリック・グラマーからの写真集を契機に表舞台へ復帰した後の作品でも速度は全く落ちていない.

年齢を重ねても鋭利であり続けるその創作は,まるでゴダールの映画のようだ.

大阪では,梅田 HEP FIVE 8F HEP HALL にて,5月16日(金)より「凶区」展開催.

□森山大道 HP
http://www.moriyamadaido.com/top.html
□写真美術館インタヴュー
http://www.syabi.com/topics/t_daido.html
□写真美術館詳細
http://www.syabi.com/details/daido.html

*エントリーの初出は2008年4月30日(main blog)。写真展は6月29日に終了。





キャベツ頭の男

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posted by cyberbloom at 00:13 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ART+DESIGN | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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