2008年07月02日

少子化特集(3) 世界のお産事情

いのちを産む―お産の現場から未来を探る■出産数が減少しているにもかかわらず、家族が立ち会うことが条件の自宅出産は、増加傾向にある。厚生労働省の調査によると、90年の1447人から05年は2509人と約1000人増となっている。また最近では、家族の立ち会いを認める病院が多くなっているため、必然的に夫の立ち会いも増えている。同省研究班が05年に実施した調査では、夫の出産の立ち会いは52・6%。99年調査の36・9%から15・7ポイント増えた。逆にだれも立ち会わなかったケースは40・9%で16・4ポイント減っている。
■しかし、自宅出産が当たり前だった1950年代より前は、夫が立ち会うという考え方はなかったようだ。夫や家族の立ち会いは、一緒に出産を体験し、感動を共有しようとする人が増えてきたからだと考える。家族に励まされながら出産するのは、妊婦にとっても精神的に落ち着いて臨めるため良いこと。立ち会いできる病院を選ぶ夫婦もいるので、今後も増えていくだろう。ただ、夫には出産のときだけではなく、その後の子育てにも積極的にかかわってほしい。
(2007年1月4日、毎日新聞朝刊)

実は私、助産院で出産に立会い、出てきた子供を受け止め、へその緒をハサミで切るという体験をした。薄暗い光の中で、生まれたばかりの赤ん坊がゆっくりとあたりを見回し、へその緒をつけたまま、母親のおっぱいを目指してお腹を登っていく様子は、デビッド・リンチの映画を思わせた。それは生の根源に触れた夢のような時間だった。助産所の体験と助産士さんたちとの親交は、その後の人生に大きな影響を及ぼした。人生観が変わったと言っていい。

自宅出産の増加は、単に伝統の復活ということではない。記事にもあるように、かつての自宅出産は男尊女卑がベースになり、女性によって囲い込まれたものだった。男が関わることはむしろタブーだったのだろう。今は夫が関わる形で、夫婦の関係性の問題として自宅出産が復活している。これは注目すべき点だ。

「古き良きもの」はどんどん活用すべきだが、保守主義者が言うように古い社会構造をそのまま復活させる必要は全くない。食文化の継承にも同じことが言える。男女の新しい関係性の組み直しの中で継承していけばいい。また、生まれたばかりの生々しい命を父親に見せつけることは、「これはオマエが世話すべきものなんだ」と強力に刷り込むイニシエーション的な効果があるかもしれない。子供の誕生は人間という仮面が裂けて、動物的で、野生的なものが発露する瞬間でもあるのだから。

こういう動きは一部の産婦人科医と対立してしまうらしく、彼らは「細菌感染の可能性がある」とか言ってケチをつける。私が通った助産所は良心的な産婦人科医と連携していて、何か問題が起こるとすぐに連絡が取れる体制になっていた。もちろん、助産院で産むのがベストだと言っているわけではない。出産は個人の心身の状態や事情に大きく左右される問題だから。こういう選択が可能だということだ。助産院支持者は、産婦人科=悪、助産院=善という二分法に陥りがちだが、依然として病院で産む人が圧倒的に多いのだから、それを真っ向から否定すると思わぬ断絶を生んでしまいかねない。どんな形で、どんな場所で生まれても、子供は全面的に肯定されるべきことは言うまでもない。

パリの女は産んでいる―“恋愛大国フランス”に子供が増えた理由一方、フランスではどうかというと、無痛分娩が90%を占めるのだそうだ。無痛分娩は硬膜外麻酔によってお産の苦痛を和らげる方法だが、日本で行われる例は極めて少数だ。フランスには麻酔医が多く、無痛分娩は彼らの層の厚さに支えられている。フランス人女性は、「母性愛が腹の痛みと比例する」とか「出産の痛みは母性愛の現出に必要」とかいう言説に長いあいだ苦しめられ(この手の言説はもちろん日本にもある)、無痛分娩は輝かしい権利の獲得という一面もあるのかもしれない。ところで、産婦人科医にしてみれば、無痛分娩は、出産日を調整できる陣痛促進剤と同じように、都合の良いものである。産婦の叫び声を聞くことなしに静かに仕事を終えることができるのだから。

そういうふうに、出産があまりに医学的に管理されたものになった結果、欧米社会では英語圏を中心に自然なお産を見直し、出産を医療側から妊婦の手に取り戻そうとアクティブバース active birth の運動が起こった。フランスのお産もその影響を受け始めているが、これに関しては日本の方が助産院を中心に盛り上がっている。どんなお産をするかは個人の選択の問題であるが、どのような選択をするにせよ、正確な情報がきちんと行渡る必要がある。下記のイギリスのようにイメージに踊らされるケースもあるし、倖田來未の「羊水が腐る」発言のように、高齢出産に対する誤った知識も流通している。

去年読んだニュースによると、イギリスでは帝王切開がブームらしい。ヴィクトリア・ベッカムやエリザベス・ハーレーなんかが自ら希望して帝王切開で生んだ影響のようだ。帝王切開はスケジュールも調整できるセレブな出産というわけだ。too posh to push(力むには上品過ぎる)という流行語まで生まれ、流行と親の都合で誕生日を決められてしまう子供が増えている。イギリスの国立病院では自然分娩か帝王切開かの選択が可能だが、帝王切開が40%を超えることもあるという。お世話になった助産婦さんがおっしゃっていたが、ブラジルでも帝王切開は金持ちの出産方法という認識があるらしく、費用を賄えない人以外は帝王切開が当たり前なんだそうだ。その助産婦さんはブラジルで自宅出産や自然分娩を広める活動をなさっている。


□フランスのお産事情に関しては「パリの女は産んでいる―“恋愛大国フランス”に子供が増えた理由」を参照。この本は突っ込みどころも多いので、そのうち書評を書きます。

□2006年に医療法が改正され、助産院が緊急時に協力してもらう「産婦人科医」と「連携医療機関」を決めなければならなくなった。助産院に協力する医師が見つからないのではと危惧されたが、何とか解決されたようだ。

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cyberbloom

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posted by cyberbloom at 11:17 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 子育て+少子化対策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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