2008年06月25日

ヒップホップ界のスターと手を組むルイ・ヴィトン

vuitton-hiphop1.jpgルイ・ヴィトンは今月、ヒップホップ界の売れっ子プロデューサーチーム、ネプチューンズの片割れ、ファレル・ウィリアムズのデザインによるジュエリー”Blason”(「紋章」)を発表しました。アフリカ美術、アール・ヌーボーからデザイナー本人の刺青まで様々なインスピレーションから作り上げた26点は、まだ一部しか公開されていませんが、石座がリバーシブルになるしかけの指輪など、ゴージャスかつ凝った仕上がりです。
 
音楽以外にもジュエリーやカジュアルウェアのデザインを手がけ、多彩なスタートして知られるファレル。ルイ・ヴィトンとは、パーティで演奏したり、日本のファッションデザイナーNIGOと共同でアイウェアをデザインするなど関わりはありましたが、最低2000ドルは下らない最高級のアクセサリーを発表するとは。驚天動地、とまではいきませんが衝撃的なニュースです。
 
マーク・ジェイコブスのクリエイティヴ・ディレクター就任後、ルイ・ヴィトンは確かに「冒険」を続けてきました。例えば、村上隆を初めとする現代美術のアーティストとのコラボレーション。今話題の女優を国籍を問わず起用する広告キャンペーン(「ヴェルサーチのきわどいドレス」で有名になったジェニファー・ロペス含む)。ゴルバチョフ等非ファッション界の有名人を使った広告も記憶に新しいところです。これまでの保守的なおハイソイメージに揺さぶりをかけ、ポップでリアルな「今」のブランドへ世間の抱くブランドイメージを改めさせる、有効な戦略といえます。しかし、今回の「冒険」は、これまでのチャレンジに比較して格段の重みがあります。本流のファッション業界の旗頭である老舗が、亜流とみなされてきたアメリカのヒップホップ・ファッションを公に認めたことになるからです。
 
ラップが世界のヒットチャートに食い込むようになってから、ビデオクリップに登場するラッパー達のファッションは時に音楽以上に世間の注目を集めてきました。スポーツブランドのアイテム等、デザインが主張しない出来合いのアイテムを組み合わせたストリート流の着こなしと、成功の証として誂えたbling-bling(ギンギラ)なアクセサリーの悪趣味寸前なコンビネーションは、従来のファッション業界にとって思いもつかない、インパクトのあるものでした。また、「人と違う常識破りのスタイル」をラッパー達が競ったおかげで、ヒップホップ界のファッションから、これまでの常識やトレンドをひっくり返す発想も生まれました。例えば、毛皮への執着。動物愛護の観点から野暮の象徴とされていた毛皮を着倒し、ティファニーのギフトボックスのような青やスニーカーとお揃いの赤に染めてみたり、スリーブレスのフーデッドパーカなど毛皮である必然性がないものわざわざ毛皮であつらえたり。ヒップホップ界のスター達が立ち上げたファッション・レーベル(パフ・ディディのSean John、ジェイ・ZのRocawear等)は、業界も無視できないほどの売り上げと人気を誇っています。
 
今や世界レベルのトレンドでヒップホップの要素は欠かせないものとなっており、程度に差こそあれ、ファッションブランドは何らかの形で意識し、また取り入れざるを得ない状況にあります。スポーツウェアブランドの格上げや、それを意識したデザインの登場はもちろんのこと、ヒップホップ・ファッションを表面的にいただいたりつまみ食いしたようなデザインは今やそう珍しい物でなくなりました。しかし、ヒップホップ界のファッションと本流のファッションとは依然として住み分けされています。地位と名誉を手にしそれなりの洗練を求められるようになったヒップホップ界のスターたちも、オーダーメイドで自分のテイストを誇示するか、自分好みのビッグ・メゾンの商品を取り入れる程度で、ファッション業界とヒップホップの世界との表立った提携はありませんでした。そうした状況で、ファレル・ウィリアムズのデザインによるジュエリーが、フランスを代表するビッグ・メゾンであるルイ・ヴィトンから発表されることはいろいろな意味で大きな一歩と言えます。

vuitton-hiphop2.jpgただし、ルイ・ヴィトンがヒップホップ・ファッションをそっくり受け入れたかというとそうでもありません。マーク・ジェイコブスのアーティスティック・コンサルタント、カミーユ・ミチェリもデザイナーとしてプロジェクトに参加しており、マーク自身もお目付役になるなど、ファレルがこれまで志向してきたポップなデザインがそのまま持ち込まれる事は回避されています。

また、ファレル自身も、映画になるようなタフな出自とは縁のない、クリーンでスマートなイメージの持ち主。、フランス版ヴォーグでのインタヴューでも、ラッパー=下品な車にビキニの女の子を侍らせたギンギン野郎という世間のイメージと一緒くたにされる事を嘆き、自分のデザインについて、「古くはキンキラ衣装で有名だったエンタメ系ピアニストのリベラーチェ、エルヴィスに、ヒップホップグループのN.W.A.と定期的に出現しては人々に愛されるキンキラ人脈の流れに組するもので、70年代のテレビスターの金ピカファッション(例えばドラマ『特攻野郎チーム』のモヒカン男、ミスターTのアクセサリー)や黎明期のラッパーから影響を受けた宝石・貴金属オタク(NERD)である自分の好みを出したもの」と説明しています。確かに、今回発表されたジュエリーは、「洗練された派手さ」が印象に残るデザインで、ルイ・ヴィトンの名を冠しても何ら問題はないように見えます。
 
しかし、18金のブラックベリー用ケースを自慢する、ヒップホップ的bling-blingを体現する存在であるファレルを、デザイナーとして未知数であることを承知の上でわざわざ指名し、数年間もの準備期間を経て商品を発表したルイ・ヴィトンの経営陣には、ヒップホップ・ファッションを取り込んだという自負だけでなく、ヒップホップで育った消費者をターゲットにしようとするしたたかさが感じられます。フランス文化を、ヨーロッパ発ファッションを代表する老舗が、恐れを知らないヒップホップ・ファッションにひざまづいたというより、手なずけてしまったとでもいいましょうか。

ファッションブランドからグローバル企業へと進化したルイ・ヴィトンの「次の一歩」であることを実感するとともに、ヒップホップ・カルチャーの変節を感じずにはおられません。ニューヨークの5番街にSean Johnのショップがオープンする等、「洗練と高級化」が進んでいる事は報じられてきましたが、ビッグ・メゾンが接点を見いだせるほどに落ち着きつつあるのかと思うと、複雑な思いにかられます。70年代に数多く制作された、『スーパーフライ』を初めとするブラックエクスプロージョン映画のヒーロー達が、その独自な着こなしもひっくるめてキワもの扱いされていたことを思うと、とうとうここまできたのか、と感慨ひとしおです。
 
ジュエリーのCMにいつもの緩いカジュアルスタイルではなくヴィトンのメンズウェアを着て登場し、自らデザインした作品をお披露目するファレル・ウィリアムズの姿には、わかりやすいヒップホップの気配は感じられません。アメリカのヒップホップ界が、そしてヒップホップ文化を消費する世界中の人々が、共感とともに身につけるのか、それとも反発するのか。商品が店頭に並ぶ春には、どんな反響を呼ぶのでしょうか。

Louis Vuitton 公式サイト
Pharrell Williams×Louis Vuitton =“Blason”Jewelry
(CM from youtube)
□ファレルが着ているのは、本人がデザインするカジュアル・ファッションブランド「ICE CREAM」と「Billionaire Boys Club」の製品です。ウェブサイトはこちら


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posted by cyberbloom at 22:28 | パリ ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | ファッション+モード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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