2008年06月17日

少子化特集(2) 名を捨て実を取る

フランス出生率が欧州1位、非嫡出子が半数超える
■2007年のフランスの出生率が、アイルランドを超えて欧州1位となった。一方、結婚していない両親から生まれた子ども(非嫡出子)が半数を超えたことも分かった。フランス国立統計経済研究所(INSEE)が15日、発表した。
■出生率は、1人の女性が一生の間に生む子どもの数の平均値。2007年のフランスの出生率は1.98で、アイルランドの1.90を上回った。欧州連合(EU)諸国全体の平均出生率は1.52だった。一方、1965年にはわずか5.9%に過ぎなかった非嫡出子の割合は、2007年には50.5%と、前年の48.4%から増加し、誕生した子どもの半数を超えた。
■社会学者、イレーヌ・テリー Irene Thery は仏大衆紙パリジャン(Le Parisien)に対し、「革命的変化の論理的帰結だろう。家族を形作るのは徐々に、結婚ではなく子どもになりつつある」と語った。
(1月16日、AFP)

パックス―新しいパートナーシップの形2007年のフランスの出生率は1月にすでに発表されている。日本は今頃出てくるが、フランスは自慢のネタなので早く出すのだろうか。日本の1.34に対して、フランスは1.98だが、欧州1位でも人口が維持できる2.07人のレベルには足りていない。特筆すべきは、結婚していないカップルから誕生した子供が50%を超えたこと。スウェーデンやアイルランドではもっと高いというから驚きだ。

フランスでは結婚件数が27万4400組と前年よりも8800組も減っていて、95年以来の少ない数。しかしフランスでは結婚せずに同棲でも、PACSという法律で結婚した場合と同じ権利を保障されている。pacser という動詞も使われているようで、飛行機で隣になったフランス人のカップルも、On a pacsé と言っていた。

PACSは性別に関係なく、成年に達した二人の個人の間で、安定した持続的共同生活を営むために交わされる契約。同性のカップルでも問題ない。フランスでは従来の結婚がもはや家族の形成を意味していない。さすがに導入をめぐっては保守派や宗教界から「伝統的な家族制度を破壊する暴挙だ」との反発もあったが、今では多くの欧州諸国が導入している。もっとも、同棲カップルがすべてPACSを結んでいるわけではない。同性カップルの契約というイメージもあり、同棲(union libre)のままでいる方が多いようだ(詳細は「パックス―新しいパートナーシップの形」を参照されたし)。

産める国フランスの子育て事情―出生率はなぜ高いのかフランスでは20-40歳の女性の人口は減っているが、働いている女性の出生率は03年45・3%から05年45・8%と増えている。つまり働く女性が子供を産んでいるということだ。最近はさすがに日本の政治家が「女性は家庭に戻れ」と時代錯誤な発言をすることは少なくなくなったが、そういう考え方が今の世では逆に少子化を推し進めてしまう。そんなことを言う人たちは家で何もせずにふんぞり返ってきたんだろうが、先回紹介した記事にあったように、今は夫が家事や育児に消極的なほど、妻の出産意欲が低くなる傾向があるのだ。

ニュースの中である社会学者が「家族を作るのは結婚ではなく、子供になりつつある」と言っている。フランスでは、離婚したあとも子供のために新しい家族を連れてバカンスなどで合流したりする。複雑な感情を抱え、ときには苦々しい思いをしながら、別れた相手の新しい家族と一緒に過ごす。一時的な複合家族が形成されるわけだ。また恒常的な営みとしても、伝統的な家族構成とは違う、変形的な家族形態がどんどん生まれている。

もちろんフランスでも決して体裁の良いことではないのだろうが、見栄や世間体よりも、「こうなっちゃったんだからしょうがない」と開き直る。そうなってしまった以上、その局面において合理性を追求するしかないのだ。サルコジ大統領はセシリア元夫人とは互いに離婚歴があり、就任当時はいかにもフランス的な複合家族を演じていた。元スーパーモデルとチャラチャラしているより、人生の酸いも甘いも知り尽くしたって感じで余程イメージが良かったのに。

「名を捨てて実を取る」という言葉があるが、日本の年配の人たちは「名」が大好きだ。名とはつまり自分たちが生きてきた価値観のこと。しかし、彼らには現在の「実」が全く見えないし、理解できないので、「名」を押し付けようとする。いくら自分にとっての古きよき時代が懐かしいとしても、その社会的前提が崩れてしまっているのだから、今さら伝統的な家族形態を復活させることはできない。名ではなく、実をとること。それは現状を直視し、それをフォローする形で行政を進め、変形的な家族形態であってもそれを支援する。そうやって何とか社会性を担保していくやり方なのだ。

再婚相手の子供を虐待するという事件が日本でよく起きているが、共同体の崩壊にオロオロせずに、生じてしまった関係性を受け入れながら、開き直る強さが必要なのだろう。そういう変化に弱いのは大概男の方で、それを打開するコミュニケーション・スキルも低かったりする。





cyberbloom

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posted by cyberbloom at 22:27 | パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | 子育て+少子化対策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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